2013 Fiscal Year Research-status Report
ドメスティック・バイオレンス対策における被害者・加害者のケアと刑罰の役割
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24730051
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
宿谷 晃弘 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (80386531)
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Keywords | ドメスティック・バイオレンス(DV) / 刑罰 / 刑罰思想 / 修復的正義・修復的司法(RJ) / ケア / 被害者 / 関係性 / 災害 |
Research Abstract |
当該年度においては、前年度に引き続いて、DV、刑罰、修復的正義・修復的司法(RJ)、暴力防止、被害者加害者のケアないし支援等の学説・制度・プログラム等の内容・歴史・実態等を調べるために、文献調査および聞き取り調査を行い、DV被害加害の実態、刑罰以外のDV対策方法の理念・制度・プログラム等の効果、刑罰の理念等の変遷、刑罰の機能等について、以下の知見を得ることができた。 つまり、まず(1)【DV被害加害の実態等】:DVは社会構造によってもたらされ得る問題であり、特定の条件のもとでは、この社会構造がもたらす害が拡大されることがあり得る。このことは、もともと男尊女卑の傾向が強く、DV等を許容する風潮のある社会において、例えば、大震災後の状況に見られるように、DV等の問題が再燃・深刻化しているという事実からも明らかである。 次に、(2)【DV被害者加害者のケア】:DV被害者加害者のケアについては、民間の支援団体の活力を利用することが好ましいことは、すでに前年度の調査からも見て取れたところである。当該年度の調査・分析においては、この民間のプログラム等の有用性に加えて、ケアの体制のあり方についても知見を得ることができた。それは、つまり、平時はさることながら、非常時(例えば大規模な災害の発生後など)には、それに応じたDV被害者加害者のケアのあり方が求められるのであり、非常時に対する備えは平時から意識されていなければならない。 そして、(3)【DV被害者加害者と刑罰の役割】:刑罰は、その実態的・機能的・思想史的考察からして、DV被害者加害者に対するケアの機能を持ちにくいことが見て取れる。ケアにおける刑罰のもつ修復的機能は、極めて限定的なものであり、DV対策において刑罰を投入しようとする際にはこのことを念頭に置かなければならない。 以上が、当該年度の研究実績の概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成度に関する上記の評価を行った理由は、以下の通りである。 まず(1)【DV関係の調査等の進展】:①前年度に引き続いて行った、DVの実態に関する聞き取り調査(地域的・状況的条件を含めてのそれ)により、DVの発生条件や被害者への影響等の把握が進展し、かつ②前年度に引き続いて行った、DV被害者加害者支援の実践等に関する聞き取り調査により、DV被害者加害者のケアに関する知見の進展が図られたため(これらの聞き取り調査においては、定点観測的な調査を行うことができたため、特定の条件(とくに大規模な災害発生後について)のもとでのDVの発生状況および被害者の影響等に関する知見の進展を図ることができた)。 次に、(2)【刑罰思想等の調査の進展】:前年度に引き続いて行った、刑罰を支える思想についての、理念的・思想史的調査を通じて、刑罰に関する知見の進展が図られたため。 そして、最後に、(1)および(2)を踏まえた上で、(3)【DV対策における被害者加害者のケアと刑罰の役割に関する総合的な分析の進展】:DV被害者加害者のケアの条件・方策等に関する知見を踏まえた上で、刑罰の本質・機能に関して分析を行い、DV対策において刑罰がどのような役割を果たすべきかについて、考察を進展させることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究に関しては、これまでの作業(文献調査、聞き取り調査等)を継続し、研究の、補充およびより一層の精緻化を図ると同時に、本研究の最終年度であることに鑑み、研究のまとめに入るとともに、足りない部分に関する調査研究をより精力的に行う予定である。具体的には、以下のような方策にて推進することにする。 まず、①【研究成果のとりまとめ・成果の公表等】:これまでの調査研究の整理・とりまとめ等を行うとともに、大学紀要等への論文発表・国内外の研究会や学会等における発表・DVの被害者加害者支援に関するミニシンポジウムの開催等を行い、研究成果を広く社会に公開する。そして、研究者や実践家等との議論を通じて研究成果の再検討やより一層の精緻化、および補充的な調査の必要性等についての検討をも行う。 次に、②【文献調査の継続】:DV対策・被害者加害者支援等および刑罰等に関する文献調査を継続的に行い、DV対策・被害者加害者支援、および刑罰の理念・制度・実態・歴史等をより明確にしていく。 そして、③【インタヴュー調査の継続】:DV・児童虐待被害者加害者支援および、広く被害者加害者支援等の実践等を行っている方々、さらには刑罰思想史に関する聞き取り調査を継続的に行い、これまでの調査を補充することによって、研究の精緻化を図る。
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Research Products
(2 results)