2012 Fiscal Year Research-status Report
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24730054
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
斎藤 彰子 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70334745)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 刑事法学 / 住居侵入罪 |
Research Abstract |
1年目である24年度においては、住居等侵入罪の客体に関わる問題について検討を進めた。具体的には、まず、(a)同罪の客体として刑法130条に挙げられている4つのもののうち、「住居」を除く「邸宅」、「建造物」、「艦船」について必要とされている「人の看守する」の意義を、とりわけ、営業時間、開館時間中は出入口が開放されている店舗、駅舎、病院、官公署の建物ないしは敷地、オートロックの設備がなく管理人も常駐していない集合住宅の共用部分や敷地など、事実上誰でも自由に出入り可能な場所についても、「看守」が認められるのか否かと関連して、判例・学説上しばしばみられるように、「看守」の意義を立入り禁止と結びつけて理解することの当否という視点から検討した。次に、(b)住居等侵入罪の客体には、建物自体のみならず、その周囲の敷地も、一定の要件のもとで、含まれる(そのような敷地のことを「囲繞地」という呼ぶ)とするのが判例、通説であるが、とりわけ、「囲繞地」もまた同罪の客体に含まれるとされる根拠との整合性に留意しつつ、「囲繞地」として住居等侵入罪の客体に含まれるための要件を検討した。さらに、(c)一戸建て住宅の敷地、集合住宅の共用部分ないしは敷地、(居室部分や貸店舗といったように)複数の性格の異なる部分からなるいわゆる雑居ビルの共用部分ないしは敷地、建造物の敷地などが住居等侵入罪の客体に含まれるとして、「住居」、「邸宅」、「建造物」のいずれに該当するのか、また、特殊な問題として、(d)建物の屋根の上や、「囲繞地」を囲む塀が住居等侵入罪の客体に含まれうるか、含まれうるとして、いずれの客体に該当するのかといった問題について、実際に裁判例にあらわれた事例を手がかりに、検討を進めた。以上の検討の成果については、下記[現在までの達成度]欄記載のとおり、口頭で発表するとともに、論文として公表する準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年間の研究期間において、とりわけ、集合住宅の共用部分やその敷地、駅舎、官公署の庁舎、店舗のような、ある程度開かれた場所への立入りについての住居等侵入罪の成否如何を明らかにすべく、大きく分けて、(1)「侵入」の肯否を判断する際に考慮すべき意思の主体如何、内容、その限定の必要性、(2)「侵入」の対象たる「住居」、「邸宅」、「建造物」に付属する共用部分や敷地等の取り扱い、(3)「人の看守」の存在が認められるための要件という3つの問題を検討する計画であるが、1年目である平成24年度においては、まず、客体にかかわる問題である(2)および(3)について検討をすすめ、(3)については論文執筆(法政論集250号掲載予定。3月脱稿済み、6月公刊予定。)、研究会報告(4月20日〔於:早稲田大学〕)を行い、(2)についても、現在、6月の脱稿(9月公刊予定。法政論集252号予定。)を目指して論文を執筆中であり、2年間で予定している研究内容の6割程度を、1年目である平成24年度において終えることができており、当初の計画通りに研究を遂行できているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目(最終年度)である平成25年度においては、上記の通り、6月中に(2)についての論文を仕上げたのち、上記3つの問題点のうち残された、(1)実行行為である「侵入」に関わる問題について検討を進める。 具体的には、まず、集合住宅において、複数の居住者相互の間、あるいは、居住者と管理権者との間において、立入りを認めるかどうかにつき意思が対立した場合における、住居等侵入罪の成否如何を明らかにするために、共同住宅の共用部分ないしはその敷地への立入りにつき、「侵入」該当性を判断する際に考慮すべき意思の主体如何、そしてその主体が複数存在する場合において、その意思が対立する場合の解決につき、住居等侵入罪の保護法益論との関連にも注意を払いつつ、検討する。 次に、不特定多数人が事実上自由に立入り可能な場所に、違法目的を隠して平穏に立入る場合の処理について検討する。従来から判例は、立入る者の真意を知っていたら立入りを認めなかったであろう場合には、住居等侵入罪が成立するとして、一般人に開放されている場所、事実上自由に立ち入ることが可能な場所に、違法目的を隠して、外見上は他の利用者と何ら異ならない平穏な態様で立入る行為、あるいは、違法目的を隠して住居権者ないしは管理権者の承諾を得て立入る行為について、広く住居等侵入罪の成立を肯定してきた。これに対しては、学説からの批判が少なくないにもかかわらず、この立場は、近時の最高裁判例においても基本的に変わりはない。このような判例によれば、住居等侵入罪においては、一定の人を立ち入らせたくないという純然たる意思が保護されることとなる。そこで、住居等侵入罪の保護法益に関する従来の議論を参考に、住居等侵入罪において保護の対象となっている法益の具体的中身をいかに解するべきかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度に引きつづき、住居等侵入罪に関する文献、判例研究を収集するとともに、東京および京都などで開催されている、実務家を交えた研究会に出席し、研究成果の一部を報告するとともに、意見交換を行う。
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