2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730059
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
佐藤 陽子 熊本大学, 法曹養成研究科, 准教授 (90451393)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 刑法 / 民事法 / 法秩序 |
Research Abstract |
1.諸外国における法秩序の一致の要請 ドイツにおいては、「法秩序の一致の要請」は、違法性阻却事由及び財産犯の保護法益に関する議論の中で通説的に主張されている。しかし、このような状況が日本刑法35条(正当行為)のような規定がないドイツ法の特別な事情に由来すること、また財産犯の保護法益については、我が国の議論状況と随分異なっている(占有の保護は主張されていない)ことから、ドイツの理論が直接的に日本の議論に影響を与えうるかについては、疑問があることが判明した。とはいえ、ドイツの議論の基礎にある、「行為規範の統一」という志向については、我が国でも十分に議論する余地があるように思われた。他方、フランスにおいては、刑法は他の法の担保法として扱われている。このような理解は、「規範の統一性」という問題ではなく、むしろ法体系の理解の相違に由来するものであり、我が国の議論に取り入れるのは困難であるように思われた。その他の外国法(英・米)については、なお研究中であるが、管見の限り、意識的・体系的に「法秩序の一致の要請」を論じたものは見受けられなかった。 2.債権法・物権法と刑法 1の研究も踏まえ、「行為規範の統一」という視点から観察すれば、国家が、民事法の規定において一方に振り分けた権利を、刑事法において保障しないという帰結は、国民の予測を裏切るものであり、不当であろうと考えるにいたった。しかし、一方で、民事法においては、二者間の権利関係だけを考えて規範が規定・適用されていない場合があり(例・誤振込の処理)、ここでは、民事法の規定に常に従属するべきかについては、疑問が生じた。以上のことから、債権・物権という分類では不十分であり、条文・事案による細分化がさらに必要であるとの結論へと至った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.諸外国における法秩序の一致の要請 「法秩序」の概念につき、我が国と他国(とりわけドイツ)が、それぞれ異なるように解している可能性が生じ、検討のための時間を要した(なお、研究中)。すなわち、たとえば正当防衛の理解において、それを「当然実現されるべきものである」と解するか、「望ましくないが、やむを得ない」と考えるかによって、実現されるべき「法秩序」が変わってくる。我が国においては、後者の立場をとっているように思われるが、ドイツにおいては、前者の立場をとっているように思われたのである。この点で、正当化事由のそもそもの理解、「法秩序」の概念、これらについて別個研究が必要となったものである。 2.債権法・物権法と刑法 上述のように、2の研究においては、債権・物権という分類では不十分であり、条文・事案による細分化がさらに必要であるとの結論へと至った。そのため、条文・事案ごとの更なる検討を要し、この点で当初予定していた以上の時間を要している(なお、研究中)。 また、本学図書館が改装で長期間使用が不可となったため、文献入手に時間を要した。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定においては、平成24年度の研究を集約し、新たに不法行為に関する研究を開始する予定であった。しかし、上述のような理由で、なお平成24年度の研究が十分に行われていないため、以下のように研究を継続する。 1.法秩序の一致の要請(総論) いわゆる総論的な意味での「法秩序の一致の要請」がそもそも日本法に適用できる理論なのか、「法秩序」とは何か、「行為規範」とどう異なるのかについて、法哲学の理論を取り入れながら検討を行う。 2.民事法と刑事法 1の研究とは別個に、複数の規範(ここでは「行為規範」となるものに限る)が異なる帰結を示すことがありうるのかについて、具体例をもって検討する。ここでは、債権・物権・不法行為という区別にこだわらず、規範の性質によって区別する。そのためには、まず規範の性質を理解しなければならないが、すべての民事法の規範の性質を理解することは(能力的にも時間的にも)不可能であるので、すでに問題として認識されている事案(たとえば、佐伯仁志=道垣内弘人『刑法と民法の対話』(有斐閣、2001)、山川一陽『犯罪と民法』(現代法律出版、2003)などを参照)を中心に、その妥当性について丁寧に検討していきたい。その際には、欲張らず、一つ一つの問題を時間をかけて検討することとする。 また、その際には、規範の抵触という意味で、国際私法の知識が有用となる可能性があるようにも思われる。加えて、この点についても研究していきたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|