2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24730059
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 陽子 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (90451393)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 刑事法 / 医事法 / 治療行為 / 自己決定権 / 仮定的同意 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度までの研究で、法秩序の一致に関する研究は領域ごとではなくテーマごとに行わなければ正確な検討はできないとの帰結にいたったことから、平成26年度は申請者が専門とする医事刑法の領域に絞って研究を行った。 本年度は、ドイツの判例で一般的に用いられている仮定的承諾の理論(説明義務違反があっても、実際にその説明がなされていたら患者は同様に承諾していたであろうという場合に、説明義務違反に基づく治療行為の違法性を阻却する理論)の妥当性の検討を続けた。その際、治療行為を正当化する要件としての患者の承諾が、いわゆる「被害者の承諾」と同様のものと解されていることに気がつき、これに疑問を持った。わが国では、たとえば町野朔『患者の自己決定権と法』(東京大学出版会、1986)が示すように、それらは必ずしも一致していない。治療行為の正当化は、治癒という優越的利益、被害者の承諾、被害者の推定的承諾が複雑に交錯する領域であることを認識するにいたり、検討範囲を広げる必要性をさらに感じるに至った。 そこで、本年度はさらに治療行為における患者の承諾の意義について研究を行い、①治療行為における患者の同意を被害者の承諾とリンクさせ、治療行為の有する有用性ゆえになんらかの修正をかける見解、②そもそもそれらを区別して扱い、患者の同意は常に必要ではなく、その意思に反しなければいいという理解、③②に加えて推定的承諾の補充性の原則を緩和し、その適用範囲を広くする理解があること、一方で結論においてはこれらの見解にそれほど大差がないことを認識した。 その後、このように比較困難な多くの学説を統一的に解釈するためには、「行為規範」を抽出するという方法が適切ではないかとの一定の結論を得た。かかる研究は今後の課題となった。 なおこれまでの研究は現在集約中であり、近いうちに公表する予定である。
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