2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730063
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Japan Coast Guard Academy (Center for Research in International Marine Policy) |
Principal Investigator |
新谷 一朗 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), その他部局等, 講師 (40532677)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 刑法 |
Research Abstract |
初年度にあたる平成24年度は,いわゆる「尊厳死」に関する法的議論を牽引したアメリカにおける議論の整理を行うことを目標としていた。そこで,新谷一朗「アメリカにおける尊厳死」甲斐克則・谷田憲俊編『シリーズ生命倫理学第5巻』(丸善出版,2012年)180-196頁においては,まず,尊厳死をめぐる議論の歴史的な背景を指摘した。そしてこれをふまえて,アメリカにおける尊厳死をめぐる基礎的な問題点,すなわち「延命拒否権の所在」,「家族等による代行判断の可否」,ならびに「リヴィング・ウィルのような書面の有効性」という自己決定を基軸とするトピック,ならびに水分補給の拒否の可否および患者の病状にとって無益とされる治療などの客観的な側面に関わる重要な論点を抽出し,分析を行った。 そして,新谷一朗「アメリカにおける人工延命処置の差控え・中止(尊厳死)論議」甲斐克則編『医事法講座第4巻 終末期医療と医事法』(信山社,2013年)180-196頁では,特定の論点をより深化させ,アメリカにおいてもいまだに議論されている論点で,かつわが国の議論に対しても有益な,「事前の意思表示の書式の問題」,「代行判断を行うための具体的な証拠規準」,「医療側によって無益だと判断された医療行為」という3つの論点に焦点を当てて検討を行った。 これにより,アメリカにおいては,医療者側が無益であると判断した治療は行わなくてもよい,という「無益な治療」という議論も盛んになっていることが判明した。しかし,わが国における議論との関係でまず参照されるべきは,終末期医療における患者の自己決定権の実現に関する議論であると結論づけた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,新谷一朗「アメリカにおける尊厳死」甲斐克則・谷田憲俊編『シリーズ生命倫理学第5巻』(丸善出版,2012年)180-196頁によって,アメリカにおける終末期医療に関する議論の基礎的な整理は行われた。そして,新谷一朗「アメリカにおける人工延命処置の差控え・中止(尊厳死)論議」甲斐克則編『医事法講座第4巻 終末期医療と医事法』(信山社,2013年)180-196頁では,その中でも終末期医療における意思決定をめぐる論点を検討し,「事前の意思表示の書式の問題」,「代行判断を行うための具体的な証拠規準」という解決すべきトピックを抽出した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において,終末期医療における意思決定という側面から,日本の議論にも示唆的なアメリカにおける尊厳死に関わる論点として以下の3つが明らかとなった。すなわち,①代行判断においても自己決定を尊重するためには「明白かつ説得力ある証拠」という基準を用いることが望ましい。これについては多くの判例の蓄積があるため,具体的にどのような証拠が提出された場合に,この証拠基準が充たされる/充たされないとされているのかを分析する。②事前の意思表示を行うに際して,自己決定をより充実化させるために,いわゆるリヴィング・ウィルに対して,様々な書式が提案されてきた。そこで,事前の意思表示を現在の意思表示と同視するために,この書式の発展を分析することは有益である。③そもそも,事前の書面による意思表示によって,意思決定能力喪失後の医療行為を指示しうるのか,という根本的な問題が存在する。そこで,アメリカの学説における肯定説と否定説を検討することは,日本の議論にとって高い知見を供給する。 そして,これらの検討をふまえて,今後はイギリスおよびドイツにおける議論にも目を向けることとする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
事情により予定していた研究会に一度参加できなかったため,当該研究費が生じた。本年度の研究においても,必要となる文献の多くは,現在所属する大学に存在しないものが多いため,本年度請求する研究費とあわせて,35万円程度を図書の購入費に充てる。また,助言を得るおよび報告をする予定の研究会および学会が東京・名古屋などで開催されるため,各新幹線代と宿泊費を概算し10万円程度をこれに充てる。
|
Research Products
(2 results)