2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730068
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
白井 正和 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (10582471)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 企業買収 / 敵対的買収 / 友好的買収 / 組織再編 / 支配権移転 |
Research Abstract |
本研究は、企業買収の場面において生じる問題に対する解決策として考えられる法制度に関して、理論的な分析・検討を行うことを目的とする。具体的には、敵対的買収・友好的買収を問わず、広く会社の支配権が移転する場面を対象に、こうした企業買収の場面で生じる問題を解決するために諸外国で採用されている法制度の具体的な内容のみならず、かかる法制度が有効に機能するための前提となる条件の内容を詳細に分析し、このような条件がわが国でも観察可能かどうかという観点から、わが国の企業買収の場面におけるあるべき法制度の内容について提言を行うことを目的とする。 本年度は、わが国企業買収の場面において取締役に対する規律づけの仕組みとして利用可能な手段に関して、主に米国法を対象とした比較法的な観点をも踏まえながら、その十分性や改善提案について検討を試みた。検討の結果として、差止請求権の行使を通じた規律づけを実現することの利点として、次の3点が指摘できるように思われる 。まず、差止請求制度の仕組み次第では、取締役に対する損害賠償責任の追及や会社に対する株式買取請求権の行使といった手段と比較して、組織再編対価の妥当性には必ずしも踏み込まなくても規律づけが可能になる点で、株主が負う証明の負担は比較的軽いと考えられる 。次に、差止請求制度の仕組み次第では、裁判所の介入により生じうる取締役に対する委縮効果は、差止請求権の行使を通じた規律づけの場合には比較的小さく抑えられる可能性がある。最後に、差止請求制度の仕組み次第では、差し止められた組織再編について、株主の判断に必要な情報を追加で開示したり、当事会社が再度誠実に交渉したり、または新たな取引相手の有無を模索・検討したりすることで、裁判所があるべき組織再編の条件を具体的に設定しなくても、市場を通じてより望ましい組織再編が実現する可能性がある 。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、わが国企業買収の場面において取締役に対する規律づけの仕組みとして利用可能な手段に関し、主に米国法を対象とした比較法的な観点をも踏まえながら、その十分性や改善提案について検討を試みた。具体的には、わが国企業買収の場面において取締役に対する規律づけの仕組みとして利用可能な手段を網羅的に整理した上で、現時点における規律づけの手段としての限界を丁寧に検討し、同時に米国法における規律づけの手段を深く理解することで、本研究を遂行するに当たっての重要な示唆を得た。 以上の作業と並行して、ヨーロッパ諸国の企業買収法制に関する調査も開始した。すなわち、ヨーロッパ諸国では一般に、米国のような裁判所を通じた規律づけの仕組みではなく、公開買付規制を通じた仕組みが活用されているが、その内容を詳細に理解するとともに、国ごとの相違点に注目し、なぜそのような相違点が生じることになったのか、公開買付規制を通じた仕組みが各国でどのように運用されているのかといった点について検討を開始した。 以上の本研究の作業状況を踏まえて、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展しているものと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度前半には、米国およびヨーロッパ諸国の企業買収法制に関する判例・学説上の議論の対立状況を把握した上で、議論の具体的な内容について詳細な分析・検討を行う予定である。分析・検討に当たっては、諸外国で採用または提案されている法制度の具体的な内容のみならず、かかる法制度が有効に機能するための前提となる条件の内容を詳細に分析し、このような条件がわが国でも観察可能かどうかという観点から考察を試みる予定である。 そのうえで、平成25年度後半には、以上の調査を経て得た知見に基づき、わが国における望ましい企業買収法制の検討という作業に取り掛かる。望ましい企業買収法制の検討に当たっては、まずはわが国の企業買収取引の現実を丁寧に分析する必要が生じるが、そのための作業として、企業買収を専門とする商法学者・実務家などの手による文献の綿密な調査を通じて、わが国の企業買収取引に関する全体像を把握する必要がある。近年では、とりわけ企業買収を専門とする弁護士によるものを中心に、わが国の企業買収の場面において現実に行われている取引の内容を詳細に紹介する文献が数多く公表されるようになっている。そのため、これらの文献を手掛かりとしてわが国の企業買収に関する全体像を把握する作業は、本研究の目的を達成する上で大変有益であると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額として26,273円が生じたが、これは平成25年2月に予定されていた本研究課題に関連する出張(東京で開催される研究会に出席する予定であった)が、報告者が当初の予定から変更されたことから、取りやめる(出張しない)こととしたことに基づくものである。26,273円については、平成25年度分として請求した助成金と合わせて、同年度に旅費または物品費として使用する予定である。
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Research Products
(7 results)