2012 Fiscal Year Research-status Report
遺言における財産処分の自由の限界―遺言者の遺言の自由と受益者の財産処分の自由―
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24730071
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石綿 はる美 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (10547821)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 相続法 / 物権法 / フランス民法 / 用益権 / 継伝処分 |
Research Abstract |
本研究の目的は、①遺言による財産処分はいかなる処分も有効か、あるいは、何らかの制約が存在するのか、②制約が存在するならばそれはいかなる理由によるのか、という点を明らかにすることである。その問いに答えるために、比較法研究を行い、そこから日本法への示唆を得ることとし、平成24年度はそのための基本的な研究を行った。 具体的には、フランス民法における「信託的継伝処分」と、「用益権・虚有権の恵与」と呼ばれる2つの制度の概要の研究と、両者の共通点・相違点の検討を行った。 信託的継伝処分と用益権・虚有権の恵与は、類似した性質を持つ制度であり、遺言者が第一の受益者(継伝義務者、用益権者)に一定期間(多くの場合は第一の受益者の生存中)に一定の財産の使用収益を認め、期間の経過後は、第一の受益者(又はその相続人)は、当該財産を第二の受益者(継伝権利者、虚有権者)へ移転するという処分である。経済的側面からは、両者の間には共通点があるものの、フランス民法典においては、信託的継伝処分は原則として禁止され(フランス民法896条、例外として1048条以下の要件を満たす場合には有効なものとして認められる。)、用益権・虚有権の恵与は有効な処分として認められている(フランス民法899条)。両者の経済面での類似性を認めながら、フランス民法はその有効性に関しては異なる結論を採用しているのである。 類似する性質を有する処分の一方が有効で他方が無効とされる場合、その理由を探ることが遺言において行うことができる財産処分の限界を検討する手がかりになると考えられる。したがって、両制度の共通点・相違点についての検討を行った。その結果、特に相違点の中で、信託的継伝処分を無効とし、用益権・虚有権の恵与を有効とする最も中心的な理由であると考えられるものは、第一の受益者に課せられている義務内容の違いではないかと、という一応の結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画においては、フランス法の基礎的研究を行うことが予定されていた。具体的には、フランス民法の信託的継伝処分(フランス民法896条、1048条以下)と、用益権・虚有権の恵与(フランス民法899条)を検討し、両者の比較を行うことでその共通点・相違点を明らかにすることが予定されていた。 平成24年度の研究では、まず信託的継伝処分、用益権・虚有権の恵与という2つの制度の概観について一定程度の研究を行うことができたと考える。用益権・虚有権の登記をどのように行うのかといった実務的な点について、まだ十分に検討できていない点もあるものの、制度の大まかな点については一定程度理解をし、まとめることができたと考える。 両者の共通点・相違点についても、一定程度の成果を得ることができたと考える。検討の結果、両者の相違点として、第一の受益者である継伝義務者、用益権者に課せられている義務の内容が異なるという点があり、それが、信託的継伝処分を無効とし、用益権・虚有権の恵与を有効とするもっとも中心的な理由ではないかという点までは明確に示すことができたと考えている。具体的には、継伝義務者には財産の保存義務があるのに対し、用益権者にはその義務がないという点である。従来から、両者を区別する基準については様々な議論がなされてきたものの、一方を有効として他方を無効とする理由については明らかにされてこなかったことを考えると、遺言において行うことができる財産処分を検討するために一定程度の示唆を与えることができると考えられ、研究の目的を実現するために、平成24年度に達成するべきことについては、ある程度明らかにできたのではないかと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は次の三点を中心に行う予定である。 第一点は、フランス民法典において、信託的継伝処分における受遺者(継伝義務者)と、用益権における用益権者に課せられる義務の内容について明らかにすることである。平成24年度の研究では、信託的継伝処分と用益権・虚有権の恵与という類似する2つの制度の前者が原則として禁止され(フランス民法896条)、後者が有効な処分として認められている(フランス民法899条)理由を明らかにするために、両者の共通点・相違点について検討を行った。その結果、両者の相違点として、第一の受益者である継伝義務者、用益権者に課せられる義務の内容が異なるという点があり、それが信託的継伝処分を無効とし、用益権・虚有権の恵与を有効とする最も中心的な理由ではないかと考えられる。そこで、それぞれの制度において、第一の受益者に課せられている義務の内容をより明確にすることによって、なぜ一方の制度が禁止され、他方が有効とされているのか、遺言において受遺者にどのような義務を課すことが認められるのかを、明らかにできるのではないかと考え、両者の義務内容につき検討を進める。 第二点は、フランス民法の2006年相続法改正、その後の実態について検討することである。改正によって、フランスでは信託的継伝処分が広く有効な処分として認められることになった。①今までの原則を大きく転換した理由を探ること、②改正をめぐる議論の中で、信託的継伝処分や受益者に一定の義務を課すことについてフランス民法学がどのように考えているかを検討すること、③改正後、従来の議論等に何らかの変化があったのかを探ることを目標とする。 第三点は、ドイツ法・日本法の研究である。①ドイツ民法にもフランスと同様の制度が存在することから、その研究を行うこと、②フランス法、ドイツ法の研究から得た示唆をもとに、日本法の研究を行うことを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度(平成25年度)使用額は、昨年度(平成24年度)の研究を効率的に推進したことに伴い発生した平成24年度の未使用額と、平成25年度請求額とを合わせて、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。 具体的には、物品費と旅費を中心に使用する計画である。 物品費に関しては、平成25年度においても、書籍の購入のために中心的に利用する予定である。フランス民法・日本民法(特に相続法、物権法)についての基本文献等の書籍の購入を行う予定である。 旅費に関しては、2006年の相続法改正以降のフランス法の実態についてより深く検討するため、また資料収集のためにフランス出張を行うこと、また、文献収集や研究の課題に関連する研究会への出席のための国内出張を行うことのために利用予定である。
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Research Products
(2 results)