2012 Fiscal Year Research-status Report
法的親子関係の構成枠組み――生殖補助医療問題を中心として――
Project/Area Number |
24730080
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木村 敦子 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (50437183)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 民法 / 親子関係 / 生殖補助医療 / 代理懐胎 |
Research Abstract |
今年度の研究実績は、大きく以下の3点にまとめられる。 1 ドイツ親子関係法を中心に、法的親子関係の成否について、次のような検討・分析を行った。まず、ドイツの代理懐胎をめぐる議論を取り上げ、行為規制ルールの整備に関するドイツ法の展開や、代理懐胎によって誕生した子の法的母子関係に関する学説・立法時の議論の検討を行った。「生殖補助医療における法律上の母子関係」(平野仁彦ほか編『現代法の変容』(有斐閣、2012年)371頁―403頁)はその成果の一部である。この中で、法的母子関係の成否について、親になる意思や懐胎にもとづく母子関係の意義を明らかにし、行為規制ルールとの関連性について検討した。また、この分析を通じて、法的父子関係と母子関係の考慮要素の相違や、法的親子関係の成立と効果(とくに親権・配慮権)の関連など、法的親子関係の構成枠組みに関する一般理論を検討・分析するうえで有益な観点を得ることができた。また、第三者の精子を利用した場合の法的父子関係や、性同一性障害者・同性愛カップルが生殖補助医療を利用した場合の法的親子関係の成否をめぐる諸問題に注目した。これらの問題に関するドイツ、その他の欧米諸国の裁判例や法制度を整理・検討し、生物学的親子関係を法的親子関係の基礎として捉えることの限界性などについて考察した。 2 家族制度や家族観について、日独の比較研究を行った。これについて、フランクフルト大学での海外調査の成果として、Gabriele Koziol氏(フランクフルト大学助教)と共著で〟Der Wandel der Familie- neue Ueberlegungen zum Modell der Familie〝を公表した。 3 子の福祉や出自を知る権利について、家庭裁判所調査官および教育学・心理学研究者と定期的に意見交換を行い、心理学的アプローチに関する知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、研究実施計画で予定していたドイツ法の研究に取り組み、一定の成果を挙げることができた。 まず、法的親子関係に関するドイツ法の文献調査として、代理懐胎の議論を通じて、法的母子関係の検討・分析を行い、その成果を論文として公表した。また、第三者の精子を用いた場合における法的父子関係に関するドイツ法の議論を整理・分析し、論文公表のための準備作業を行うことができた。さらに、性的マイノリティをめぐる法的親子関係という新たな問題についての分析にも着手し、生物学的親子関係の持つ意義の限界などについて考察を行った。以上のように、今年度はドイツ法をベースに、法的親子関係に関する個別具体的な問題を中心に十分な検討を行うことができた。また、そこで得られた成果は、本研究の最終目的である法的親子関係の構成枠組みの一般理論を構築するうえで、有益なものであると考えられる。もっとも、今年度の成果として得られた分析のための観点をふまえて、ドイツ親子関係法を整理し直し、再検討する作業が課題として残っている。 また、ドイツでの家族生活や生殖補助医療の実施状況に関する研究については、ドイツのフランクフルト大学での海外調査によって、有益な情報交換・資料収集をすることができた。日本の家族生活や家族観についても、法制度の側面からの分析・検討に加えて、法哲学や家族社会学分野の文献調査を行うことができた。これらの成果の一部は、論文として公表している。しかし、こうして得られた知見について、社会学者や法哲学者と意見交換することができなかったため、生殖補助医療の利用の背後にある社会的背景や家族観について十分な検討を進められなかった。これについては、平成25年度以降の課題として取り組むこととしたい。 以上のように、平成24年度は、当初の研究実施計画にもとづき、おおむね順調に研究を進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目にあたる平成25年度については、当初の研究実施計画によると、前半期よりフランスの親子関係法に関する研究に着手する予定であった。しかし、今年度の研究を通じて得た新たな観点や問題点をふまえて、ドイツ法を比較対象として、法的親子関係の構成枠組みについてさらなる考察を行う必要があると考えている。そこで、研究実施計画を一部変更し、平成25年度前半は、平成24年度に引き続き、ドイツ親子関係法の検討・分析を行い、後半からフランス法研究に取りかかることとする。 前半期におけるドイツ親子関係法の研究に関しては、今年度より検討を進めている第三者の精子を用いた場合の法的父子関係に関する分析をまとめるほか、日独の親子関係法の比較の観点から、法的親子関係の成否に関する一般理論についての考察を行い、その成果を国内外の研究会で報告することを考えている。ドイツ親子関係法の研究成果をまとめるにあたり、8月に、ドイツのハンブルク大学にて研究調査を行い、資料収集や意見交換を行う予定である。 後半期は、フランスの親子関係法を中心とした研究を行う。この時点での研究の進捗状況によっては、研究対象をより個別具体的なテーマ(たとえば代理懐胎)に絞ったうえで、文献資料の収集・整理を行うこととする。年度末には、フランスで研究調査を行うことを予定している。 このほか、ドイツ・フランス法の研究と並行して、家族観や生殖補助医療の利用状況について、社会学者と意見交換を行い、生殖補助医療の実施状況やその背後にある社会的背景の把握に努める。また、子の福祉や自己の出自を知る権利については、今年度に引き続き、教育学・心理学の研究者や家庭裁判所調査官との情報交換を行う。 以上の研究成果をふまえて、最終年度に向けて、日本法とドイツ法・フランス法を総合的・包括的な観点から整理、分析するための準備を整える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、購入を予定していたいくつかのドイツ法文献について、その入手に時間がかかったため、年度内に購入することができなかった。そのため、物品費のうち、書籍購入費が当初の予算額よりも少なくなった。また、旅費に関しても、ドイツのフランクフルト大学での海外調査費が当初の予算を大幅に下回る額となった。これは、オーストリア(京都大学・ウィーン大学の比較法セミナーのために滞在)からドイツのフランクフルト大学に訪問したため、往路の費用が大幅に抑えられたこと、および調査期間が予定よりも短くなったことによる。 そのうえで、平成25年度は、次のようなかたちで研究費を使用する予定である。 まず、物品費は、平成24年度に購入を予定していたドイツ法の文献のほか、家族法および生命倫理、家族社会学等に関する関連図書を購入するために使用する。このほか、国外での研究調査のために使用するノートパソコン等の購入を予定している。 また、ドイツ・フランスでの海外調査を行うための旅費として使用する。今年度のドイツ滞在が予定よりも短くなったという事情に鑑み、平成25年度は、1か月ほどドイツのハンブルク大学での研究調査を行う予定である。このほか、ドイツのオスナブリュック大学およびフランスでの短期の研究調査(それぞれ1週間程度)を予定している。また、毎月東京で開催される家族法に関する研究会出席のための交通費として使用する。
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