2013 Fiscal Year Research-status Report
法的親子関係の構成枠組み――生殖補助医療問題を中心として――
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24730080
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木村 敦子 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (50437183)
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Keywords | 民法 / 親子関係 / 生殖補助医療 / 代理懐胎 / ドイツ |
Research Abstract |
本年度は、法的親子関係の成否に関する枠組みの精緻化を目的として、以下の研究に取り組んだ。 第一に、ドイツ親子関係法における嫡出・非嫡出子の法的父子関係の成否について検討・分析を行った。まず、嫡出推定・否認制度に関するこれまでのドイツ法研究の成果を整理し、嫡出親子関係の成否に関わる構成要素を抽出し、諸要素がどのように衡量されているかを分析した(その成果として「法律上の親子関係の構成原理(五)」(法学論叢174巻6号)を公表)。また、非嫡出父子関係に関する認知(承認)や準正制度の分析を通じて、意思的要素の位置づけが独仏法で異なることや、養子制度のあり方が認知や準正制度に対して大きな影響を与えていることを明らかにすることができた。 第二に、生殖補助医療を用いた場合の法的親子関係について、昨年度の研究成果をベースに考察を進めた。マックス・プランク外国私法・国際私法研究所の研究者に代理懐胎における法的母子関係についてインタビューを行い、ドイツ法上の母子関係の意義及びその背後にある文化的・社会的背景、独仏法の相違点や国際私法上の問題点に関する有益な示唆を得ることができた。また、最高裁平成25年12月10日決定を素材として、嫡出推定・否認に関する日本の判例・学説を整理し直すとともに、性同一性障害者をめぐる親子関係の形成や生殖補助医療の利用という新たな課題について検討した。 第三に、家族制度や婚姻制度の意義の変容とそれが法的親子関係に与える影響を探る研究に取り組んだ。欧米諸国の同性カップルの婚姻・パートナーシップ制度や、EU内の家族法統一に向けた作業に関する最新の動向を調査し、家族関係の個人主義化・契約化とその限界について考察した。また、非嫡出子の相続分規定を違憲と判断した最高裁決定(平成25年9月4日)をもとに、日本の家族観の変化や婚姻制度の意義の変容に関する検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まず、ドイツ親子関係法に関するこれまでの研究内容を整理し、嫡出親子関係の成否において考慮されている諸要素と衡量基準を検討・分析し、法的親子関係の成否の構成枠組みを明らかにする作業に取り組んだ。この作業にかなりの時間を費やすことになったが、これにより得られた法的親子関係の構成枠組みは、日本の法的親子関係に関する諸制度を分析するうえでも有用なツールになり得るものである。本年度の研究から、ドイツ法の研究成果のまとめや日本法の検討に向けての重要な足掛かりを得ることができ、また本研究目的の柱の一つを築くことができたと考えている。 また、最高裁判所が非嫡出子の相続分や性同一性障害者の法的父子関係の問題に関連して日本の法的親子制度に関わる重要な判断を示したことに伴い、本年度後半期は、これら最高裁判例を素材として日本法の検討・分析に取り組んだ。これにより、次年度に行う予定であった日本法の検討作業の一部を前倒しして着手することになった。 もっとも、当初の研究計画で予定していたフランスでの調査研究を行うことができなかったため、フランス法に関する研究成果は、ドイツ法の検討を通じて得られた知見の範囲にとどまる。また、第三者の精子を用いた場合の法的父子関係の研究については、最高裁決定に係る日本法の議論を考察したものの、ドイツ法の議論をふまえての分析までには至らなかった。このように研究計画の一部を遂行できなかった要因として、ドイツの嫡出親子関係の構成枠組みを明らかにするための作業に多くの時間を費やしたことや、最高裁決定の検討・分析に重点的に取り組んだことが考えられる。しかし、本研究課題の目的である法的親子関係の成否を定める枠組みを明らかにするうえで本年度取り組んだ作業は大きな意義を有している点に鑑み、現在までの全体的評価として、本研究課題の遂行はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成26年度について、当初の研究計画では、前半期はドイツ法・フランス法に関する研究成果をまとめる予定であった。しかし、【現在までの達成度】で述べたように、フランス親子法については必ずしも十分に研究に取り組めておらず、また残り一年でフランス法研究に着手し、一定の成果を得ることは難しいと考えられる。むしろドイツ親子関係法について検討すべき新たな課題がこれまでの研究を通じて一層明確になっており、またその課題の解明が日本法の検討にとっても有益であることから、次年度はドイツ法をより精緻に検討し、日本法にフィードバックする作業に取り組むこととする。そこで、当初の研究計画を一部変更し、最終年度も、ドイツ法を比較対象の中心に据えた研究を進め、ドイツ法・日本法の検討を通じて必要になった限りでフランス法にも触れることにする。 以上のことをふまえて、次年度の研究計画は、次のような形で進める。 まず、前半期は、ドイツ親子関係法について、これまでの研究成果を整理し、法的親子関係全体の構成要素と衡量基準を明らかにする作業を行う。これに関連して、ドイツの養親子関係の研究にも取り組む。また、第三者の精子を用いた場合の法的父子関係に関するドイツ法の議論を整理し、生殖補助医療を用いた場合における法的父子関係と法的親子関係の一般的理論との関係について検討・分析を行う。これらの研究を進めるにあたり、資料収集やインタビューを実施するために、ドイツでの調査研究を行う予定である。 後半期は、日本の法的親子関係について検討する。ドイツ法をベースに構築した法的親子関係の成否に関する構成枠組みを用いて、従来の日本の嫡出推定・否認や認知制度に関する判例・学説を整理し、問題点を明らかにする。また、生殖補助医療を用いた場合の法的親子関係について具体的な解釈論・立法論の提示を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度について、当初の使用予定額よりも支出が下回ることとなった理由として、次の二点が挙げられる。第一は、当初予定していたフランスでの調査研究を行うことができなかったため、その旅費に充てる予定だった費用の一部が未使用になったことである。第二は、外国法に関する書籍を購入する必要性が生じなかったため、書籍代としての支出が抑えられたことである。これは、本年度の研究では、論文資料を用いることが多く、また本年度重点的に取り組んだドイツ法の研究成果の見直しと整理作業においては、新たな文献資料(とくに書籍)を利用する機会がほとんどなかったことによる。 次年度については、第一に、外国法関連書籍の購入費用として使用する予定である。とくに、これまで必ずしも十分に資料収集ができていないドイツの養子制度研究に関連する書籍の購入を考えている。第二に、ドイツ法に関する資料収集やドイツ家族法研究者へのインタビューを実施するための調査研究費用として用いる予定である。これにより、ドイツ法の研究成果のとりまとめに向けて情報を補充したり、分析のためのアドバイスを得ることができると考えている。具体的には、マックス・プランク外国私法・国際私法研究所のほか、ボン大学あるいはマールブルク大学での調査を予定している。
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Research Products
(1 results)