2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730086
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
前田 太朗 愛知学院大学, 法学部, 講師 (20581672)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 不法行為法 / 危険責任 / 過失責任 / 企業責任 / オーストリア法 |
Research Abstract |
本年度は、オーストリア法における危険責任論の検討を行った。とくに主眼が置かれたのはオーストリア法では、なぜ比較法的に特徴がある危険責任法理の展開が必要だったのか、ということである。その理由は、オーストリア一般民法典(ABGB)1315条に規定される使用者責任の射程が狭いこと及び過失責任の発展がそれほど見られないことにあった。こうした法状況において、危険責任の展開に大きな影響をあたえたのは、Armin Ehrenzweigであった。彼は、填補がなければ許されない活動は、填補がなされていればその活動は認めるべきであり、しかし、その事業活動により伴う危険性が実現し損害を惹起するならば、その事業活動を行う者は、損害賠償責任を負うとして、ここでは、立法の遅さ、使用者責任の狭隘さ、使用者責任規定の厳格な適用の問題を挙げて、危険な事情活動を行う事業者への危険責任をひろく適用することを主張し、これに基づいて、オーストリア最高裁(OGH)も、危険責任を拡張して適用してきた。しかし、ここでは危険責任の類推といっても、各事件、各制定法から基本思想を導き出し、それを具体的な事件に当てはめて解決するのではなく、制定法として規定された危険責任を個別に慎重に類推して適用し、事件を解決していく方向性を、OGHは明確に示している。2000年以降、オーストリアでは、改正作業がなされ、改正提案も示され、活発な議論が展開されている。しかしそこで示される改正提案のテキストだけではなく、そのテキストが生まれるまでの、上記法的議論の営為、裁判例の展開を明らかにし、それを踏まえたうえで、改正提案をみれば、その意義や重要性、そして問題点をよりよく理解できるものと考えている。24年度の作業は、予想される日本の不法行為法の改正作業においても、必要な作業だと考えている。来年度以降、以上の成果を踏まえ、紀要等で公刊する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3か年の初年度ということで、資料収集及びその翻訳・分析に思ったより時間を要したが、関連する判例および学説の分析ができ、25年度で予定していた具体的な研究成果の公刊に必要な土台を構築できたと考えている。具体的には【研究実績の概要】で示したように、オーストリアの危険責任に関する判例およびその発展の基礎となった学説の翻訳及びその分析を行った。ここでは、「オーストリアにおける危険責任」ということで諸外国とは異なり、過失責任がそこまで展開してこなかったために、この危険責任法理に頼らざるを得なかったというオーストリア法の特徴が明らかとなった。 それと同時に、オーストリア法で実際に問題となる危険責任の事例は、日本でいうところの過失責任で十分に処理できるものといえるが、それは各国の経済状況・工業形態等にも左右されるものであり、思想としての危険責任と実務での危険責任のかい離がみられる。仮にこの思想としての危険責任が日本で起こったような大規模な公害事件に対してどのように当てはめられるか、という点まで発想が及んだことは、当初の研究計画を構想した段階では、予想をしていなかったことであり、本年度の研究が想定以上のものとなったものと考えている。 こうした成果の一端については、平成24年12月19日 愛知学院大学法学部宗教法制研究所平成24年度法律研究会において、「オーストリアにおける危険責任法理の展開と限界」と題して報告を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度は、危険責任法理の検討にとどまったが、25年度以降は、他の責任原理との関係を見ることで、各責任原理の相対的な位置づけを探っていきたい。そのために、契約責任による処理、機関を広くとらえ法人の責任を認める代表者責任の展開により、危険責任だけではなく、総合的にこれらの法理により、事業活動に伴って生じる事故の処理を行ってきた。さらに過失責任においても、客観的義務違反を問題とするVerkehrssicherungspflichtenが、裁判例により展開され、従来の主観的な過失概念では必ずしも適切には理解できない状況が、現在のオーストリア法で生じていることが明らかとなった。これは、主観的な責任としての過失責任と客観的な責任としての危険責任と言う一見明確に区別できる責任原理の関係性モデルが、変化を迎えていることを示唆するものである。そのため関連する諸判決を検討することで、現在までの過失責任の展開を明らかにしたうえで、危険責任との関係性を見て行きたい。そのため引き続き、裁判例及び関連する文献の翻訳を行ったうえで、検討を加えていく。こうした分析・検討の成果について、学内外の研究会において適宜報告し、出席者との質疑を通じて、さらに検討を進めていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【今後の研究の推進の方策】でも示したことと重なるが、25年度は、オーストリア法における過失責任の転換を検討していき、そのうえで、危険責任との関係性も見て行きたい。また併せて、契約責任の展開も見られるため、これも時間の許す限り25年度の中で検討していき、オーストリア法における責任原理間の相互の関係性について明らかにしていきたい。そのため、引き続き、判例および文献を収集するために、図書費及び消耗品費に予算の40パーセントほどを当てたい。また合わせて資料が勤務校では限られているため、国外からの取り寄せるための送料について、予算の20パーセントほど、国内の研究機関(例えば法務図書館)というで資料収集を行うための旅費を10パーセント考えている。なおこうした分析・検討等を通じて生じた疑問点について解消するために、現地の研究者にアポイントを取って、疑問点をインタビューすることも考えている。そのための旅費を、20パーセント弱を考えている。
|