2012 Fiscal Year Research-status Report
証券市場における複合的な違法行為 いわゆる不公正ファイナンスについて
Project/Area Number |
24730091
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
上田 真二 関西大学, 法務研究科, 准教授 (00359770)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / アメリカ / EU |
Research Abstract |
本研究は、(a)いわゆる不公正ファイナンスの類型化、(b)不公正ファイナンスに「偽計」を適用することに対しての法的検討、(c)不公正ファイナンスが起きてしまう制度上の問題点への言及、について扱うものである。今年度は、不公正ファイナンスの①実態の把握、②文献・資料の調査および収集を主な目的としていた。 まず、①実態の把握については、証券取引等監視委員会において告発された事例を中心に、その内容を整理することに努めた。その結果、現在までに、7件の事案が告発対象となり、うち1件については裁判例として公刊されていることが判明した(これについては判例研究として採り上げることにした。詳細は後述)。 次に、②文献・資料の調査および収集については、国内の文献にとどまらず(外国出張を利用して)外国の文献まで調査・収集することができた。直接的に不公正ファイナンスについて論じられてきたものの大半は収集し終えたが、証券市場の抱える制度上の問題や会社の内部統制の問題にまで研究の範囲を想定していることから、来年度以降も引き続き取り組んでいきたい。 先にも述べた通り、今年度は不公正ファイナンスについてこれまでに公刊されている唯一の事案であるペイントハウス事件(平成22年2月18日判決(判例タイムズ1330号275頁))について、判例研究という形で研究成果を公表することとなった(平成25年3月20日投稿済み。掲載は次年度)。 本判決は、不公正ファイナンスの発行市場における部分を問題とし、証券取引法(現行の金融商品取引法)158条の「偽計」を適用した。具体的には、いわゆる法定開示ではない、証券取引所の自主規制に係る情報開示(TDnet)を問題にした点で特徴的であった。しかし、「偽計」の意義について明らかにしていない点、流通市場における行為について問題としていない点で、本判決の判断には疑問が残った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、先にも述べたとおり、不公正ファイナンスに関する(類型化のための)①実態の把握、②文献・資料の調査および収集を主な目的としていた。①については、概ね達成することができ、②についても直接的に不公正ファイナンスについて論じられた文献・資料の収集は終えることができた。以上から、本研究は、おおむね順調に進展していると考えている。 より具体的に、①について、不公正ファイナンスは、証券取引等監視委員会による告発を契機として、その実態が明らかになることが多いことから、同委員会のホームページに掲載された情報の収集、同委員会による出版物、同委員会の関係者による論文等の収集を行い、これらの分析を行った。その結果、現在までに7件の事案が告発され、そのいずれもが金融商品取引法158条の「偽計」に当たるとされていることが判り、その実態に迫ることができたものと考える。 次に、②について、国内の文献に限らず、外国の文献についても調査・収集することができた。外国の文献については、とりわけ英米の文献に着目し、たとえば、Market Abuse RegulationやBloomenthal & WolffのSecurities and Federal Corporate Lawに接することができたのは有益であった。今後は、市場濫用(あるいは市場阻害)行為について、どのように考えられているのか、分析していくなかで明らかにしたいと考えている。 また、当初は予定していなかった、判例研究に臨むこととし、その成果を公表した(掲載は次年度)。現在までに公刊されている唯一の事案で、かつ、不公正ファイナンスに対する判断が示された最初の貴重な判決ではないかと考えたからである。これは、先にも述べた①実態の把握にとどまらず、その法的分析にまで到達したことを意味し、今後の研究にとっても意義のあるものであったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は先にも述べた(a)~(c)の3つから構成されるが、その進め方は、文献・資料の調査および収集、それらの分析・検討を経て、論文の作成・公表という形を採る。以下では、本研究の内容に沿って、今後の研究の推進方策を記す。 まず、本研究の一つ目の柱である(a)不公正ファイナンスの類型化について、今後もこの作業に引き続き、取り組んでいきたい。今年度に事案の(実態)把握は終えたことから、今後はその分析作業に入り、類型化を進めたい(より具体的には、事案の共通点の抽出、傾向の把握といった作業が中心になる)。本研究では、金融庁における審判事例も研究対象に加ええていることから、新たな事案が発生するなど機会があれば、審判の傍聴も行いたい。 次に、本研究の二つ目の柱である(b)不公正ファイナンスに「偽計」を適用することに対しての法的検討については、今年度、判例研究に取り組んだことで一定の成果があったが、これは日本法を中心にした検討でもあった。本研究では、比較法的手法も採り入れて検討することとしており、この点から、今後は外国法の状況の把握および分析に力を入れていく。なお、外国法文献については一定程度、今年度にも収集していることから、それらを素材に分析をはじめ、文献・資料の調査および収集についても継続的に取り組んでいく。 最後に、本研究の三つ目の柱である(c)不公正ファイナンスが起きてしまう制度上の問題については、今後(とくに次年度)、証券市場の抱える問題に焦点を当てて、研究を進めたいと考えている。より具体的には、上場制度や上場規則、証券取引所の上場会社に対する「対応」の分析が中心になる。近時、上場廃止をめぐるいくつかの裁判例が現れており、そうしたものも素材に取り込みながら行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(1 results)