2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730117
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
飯田 健 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 講師 (50468873)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 政権交代 / 投票行動 / リスク態度 |
Research Abstract |
本年度の成果は次とおりまとめられる。二大政党制において、国民の支持を失った与党は野党にとって代わられることが想定されている。しかしこの想定は、民主党政権期、民主党の支持率の低下が最大野党である自民党の支持に必ずしも結び付かなかったという意味において、日本では実現されていなかったように思える。なぜ与党に不満を持った多くの有権者は、最大野党の支持へと向かわなかったのであろうか。 本年度の研究では、有権者のリスク態度という新たな変数に焦点を当てることで、この疑問に答えるための理論的検討を行い、そこから導き出した仮説を既存のサーベイデータを用いて実証しようとした。政権交代はしばしば急激な政策変化をもたらし、その政策変化は経済や社会に良くも悪くも不安定性をもたらす。それゆえ、そうした不安定性を嫌うリスク回避的な有権者は選挙において、たとえ与党に不満を感じようとも野党に投票せず、再び与党に投票するか、あるいは棄権するであろう。反対に、リスク受容的な有権者は与党に不満を感じたときには、政権交代を求めて喜んで野党に投票するかもしれない。 多項ロジットを用いた統計分析の結果、政党支持態度や経済評価の影響を考慮してもなお、2009年に民主党に投票したリスク受容的な有権者は2012年において自民党もしくは維新の会へと投票先を変える傾向にあった一方、2009年に民主党に投票したリスク回避的な有権者は2012年においても民主党に投票し続ける傾向にあったことが示された。 本研究は現代日本政治における上述のパズルを解くことのみならず、なぜ与党に不満をもつ有権者が棄権ではなく野党に投票するのかを十全に説明できない従来の業績評価投票理論を発展させることによって、より広く政治学に貢献しようとする試みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画に記したとおり、来年度の独自のインターネット実験に向けて、既存の世論調査データの記述的な分析と、理論構築とを行った。まず2008年から2011年にかけての行われた複数の世論調査データを用いて、有権者の政党に対する期待、失望の関連、他の政治意識・行動変数との関連について記述統計やクロス表や散布図をもとに予備的な分析を行い、データの全体の把握を試みた。 次にそこで得られた知見をもとに、理論構築を行った。その際の指針として、過去の業績評価が現在の投票に影響を与えるというretrospective voting の理論(Fiorina 1981)や、過去の経験によって現在の行動が変化するというadaptive learningモデル(Bendor, Diermeir, Ting 2003, Fowler 2007)、感情と理性を接合を試みるaffective intelligenceの理論(Markus, Neuman, McKuen 2000)を参照した。 最後に、その理論をもとに有権者のリスク態度が野党への投票行動を促すメカニズムに関する仮説を導き出し、2012年総選挙のデータで検証した。その成果を2012年3月のアメリカ西部政治学会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度の理論的検討から導いた仮説を、研究計画にもあるとおり独自にデザインし実施するインターネット実験を用いて検証する。また国際レベルの研究にするため、さらなる文献サーベイを行い、最先端の研究との接点を模索し、より多くの研究者に面白さが共有される研究フレームワーク構築を模索する。また、リスク志向有権者の存在が日本政治にどのような影響を及ぼしているかについて、より実際的なレベルで検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の大半は独自のインターネット実験の委託料に支出される予定である。委託先としては以前から利用している(株)日経リサーチを考えている。できるだけ費用が安くなるように工夫しつつ、調査を設計する予定である。この他、既存のデータセットの分析補助の人件費や、国際査読誌への投稿に向けての英文構成費、成果報告のための出張費、理論の補強のための書籍購入費への支出を予定している。
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