2014 Fiscal Year Research-status Report
「社会」観における伝統と近代――明治前期の「統治」と「社会」
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24730125
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
菅原 光 専修大学, 法学部, 教授 (90405481)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 思想史 / 政治学 / 政治思想史 / 法秩序論 / 社会 / 明治政治史 / 統治論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治政治思想史を「社会」という用語の成立過程という視点から捉え直すことを目的とし、その用語の成立に大きな影響を与えた原語として英語の“society”に加え、幕末明治期の学問に大きな影響を与えたオランダ語の”maatschappij”を、伝統的背景として仁斎学、徂徠学における「社会」観とを重要な考察要素とし、明治時代における社会論と統治論との位相を明らかにすることを目的として、進めてきた。 2014年度は特に、伊藤仁斎関係の調査が進んだ年度であった。というのは、研究を計画していた当初からすれば全くの予定外のことであったが、伊藤仁斎研究の専門家から、古典籍、江戸儒学関連資料並びに伊藤仁斎関係の校本類を譲り受けることになったためである。同氏の研究室に出向いて必要資料を精査した上で持ち帰った後、特に伊藤仁斎関係校本類を中心に読み進め、その「社会観」についての考察を進めている。 研究の途中成果は、8月にスロヴェニアで開催されたヨーロッパ日本研究学会で発表し、有益なコメントをいくつかいただいた。それらのコメントを活かしつつ、さらなる研究を進めているところである。なお、スロヴェニアに向かう前後に立ち寄ったオランダでは、必要史料の調査、収集を行った。 現時点までの研究では、「国家」領域と「社会」領域との両者を同時に建設しなければならなかったという、明治前期の思想家達が直面していた現実を踏まえた上で、「社会」という概念が輸入されたことの思想史的な意味を解明しようとしている。また、「社会」概念を全くの輸入概念として捉えるのではなく、「社会」に相当する現実が、江戸にもあり得たという観点を導入することで、「国家」か「社会」かという二者択一的な視点で「社会」概念を導入した思想家達の思想的営為を言祝ぐのとは違った形で、「社会」概念成立史を再構成しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料調査、読解をおおむね予定通りに遂行している他、途中成果を、適宜、学会等で発表し、専門家からのアドヴァイスをも受けている。ここまでの研究で足りていない点も含めてアドヴァイスを受けてもいるので、それを活かしながら研究を遂行中である。ただし、前年度、妻が切迫早産で自宅での絶対安静を強いられていた関係で、その期間の研究がやや滞らざるを得なかった面もあり、現在に至るまで、そのことが多少の影響を与えている面があることは否定できない。そのため、「おおむね」順調に進展しているという言い方になる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初、“society”の定訳語となっている「社会」という用語を発明したとされる福地桜痴関係の史料調査を重要視していたが、諸般の事情から未だ史料調査に出向くことができていない。当初予定では、予備調査のための出張を行った後、本格的な調査を行うことにしていたが、やむを得ないので、今年度は、現地に行かずにできる事前調査を十分に行った上で、現地史料調査の必要性を判断し、必要な場合には長崎への出張を予定している。 ここまでの研究の途中成果は、7月にソウルで開催予定の日韓政治思想学会・共同学術会議、同じくソウルで開催される第3回東アジア若手歴史家セミナーで発表する予定である。
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Causes of Carryover |
妻が切迫早産で思うように史料調査のための出張を行うことができなかった時期があったため、残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定通りに史料調査を行うべく、旅費として使用する予定である。
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