2012 Fiscal Year Annual Research Report
「市民的統合」のヨーロッパ化―EU移民統合政策の現在―
Project/Area Number |
24730126
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐藤 俊輔 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (40610291)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2013-03-31
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Keywords | EU / 移民政策 / 移民統合 / ヨーロッパ化 / 市民統合 / 市民化 |
Research Abstract |
本年度、当該研究から得られた成果は以下の3点である。 第1に、EUにおける市民的統合政策の淵源は、ひとりナショナリズムのみに求められるものではない。同時代資料の分析を通じて明らかとなったのは、EUの長期居住者指令およびその悪名高い「統合要件」条項の挿入に際し、必ずしも、排外的な意図ばかりが働いていたわけではないということである。本研究の重要な発見として、当該条項策定に際して影響力を発揮したのがドイツであることを明らかとした点が挙げられるが、ドイツ議会の討論を分析すると、市民統合政策は右派ばかりではなく、むしろ与党であった左派からも移民統合を推進する施策として積極的な支持を受けていた。そして、その内容にはナショナルな価値の維持とは逆の意図もみてとれる。このため、同指令の採択がナショナリズムへの傾斜を表すとする先行研究には再考の余地がある。 第2に、EUの市民的統合の多面性をより評価すべきである。先行研究では、EU長期居住者指令と家族再結合指令を同様の方向性を持つものとして評価してきた。このような評価は、両指令の同時的な採択、相似形の文言を持つ「統合」条項の挿入から、ある程度当然であった。しかし、つぶさに採択過程を分析した場合、家族再結合指令に対しては、ドイツではなくむしろオーストリアからの影響が強く存在していた点が本研究により明らかとなっている。このため、両指令を切り離し、各々の性格と由来の相違を明らかにすることが今後の市民統合研究の鍵となる。 第3に、以上から推察されるのは、EUの市民統合政策がある種の同床異夢に基づく、多義性を孕んだヨーロッパ化であったということである。同政策を推進した各国の意図が丁寧に分析される必要があろう。 なお、これらの成果については既に12年6月1日東大社会科学研究所・ヨーロッパ研究会において報告を行っており、引き続き学会誌への発表を目指している。
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