2012 Fiscal Year Research-status Report
新しい社会的リスクの比較政治経済学:党派性に着目した子育て・労働市場政策の分析
Project/Area Number |
24730127
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
稗田 健志 大阪市立大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (30582598)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 比較政治学 / 比較政治経済学 / 比較福祉国家論 / 新しい社会的リスク / 政党政治 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、経済・社会構造の脱工業化に伴って顕在化してきた「新しい社会的リスク」への政策対応に、有権者の政策選好の多様化を反映して多元化のすすむ政党政治が与えてきた影響を探り、その作業を通じて、脱工業化の下での政党間競争の変容を理論化してきた政党システム論の研究成果を福祉国家研究に応用し、近年の福祉国家の再編成の規定要因を明らかにすることである。この目的を果たすため、一年目となる2012年度は、主に子育て支援施策の先進民主主義諸国の間での多様性を規定する要因の計量分析に取り組んだ。 上記の課題を果たすために必要な第一の作業は、説明変数となる政党の政策位置を「再分配次元における左右軸」および「社会的価値次元におけるリバタリアン-権威主義軸」のうえでマッピングすることである。本年度は経済開発協力機構(OECD)加盟18ヶ国の主要政党の政策位置を「比較マニフェストプロジェクト」の政権公約データをもちいて算出し、1960年から2010年までの政権の政策位置を推定した。 第二に、各国の政権の政策位置の時系列データをもちい、政権政党の党派性と子育て支援施策との関係を調べた。具体的には、保育サービスに向けられる公共支出の規模、法定出産・育児休暇取得日数、公的・私的保育サービスの0から3歳児におけるカバー率といったデータである。その結果、「左派-リバタリアン」政権が公的保育支出の対GDP比をもっとも拡張させることが明らかとなった。なお、再分配支出の拡大に親和的な左派政権のなかでも「左派-権威主義」政権は、公的保育支出に統計的に有意な効果を示さなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、旧来型の再分配の大小をめぐり左派と右派が競い合う一次元的政党競争空間から、環境、フェミニズム、個人主義、移民受入、ナショナリズム、多文化主義などの社会的価値への賛否を巡って戦われるリバタリアン-権威主義の対立軸も影響する二次元的政党競争空間へと変容してきた脱工業社会型政党システムが、子育て支援施策と労働市場政策という二つの政策領域に与える影響を探ることにある。その意味で、子育て支援施策の分野で二次元政党競争空間上の政策位置が政策的アウトプットに影響することを示した2012年度の研究成果は研究課題の少なくない部分を達成したこととなる。本研究課題がおおむね順調に遂行されていると自己評価する所以である。 報告を予定していたアメリカ政治学会(American Political Science Association: APSA)年次大会(於・ニューオリンズ)がハリケーンのため中止となるなど、研究を進めるうえで障害がなかったわけではないが、研究成果をまとめた論文がすでに日本の学会誌(日本比較政治学会年報)および欧州の学術誌(European Journal of Political Research)に採択されるなど、そうした研究遂行上の困難にうまく対処し計画通りの成果を挙げることにこれまでのところ成功している。
|
Strategy for Future Research Activity |
2012年度は「再分配次元における左右軸」および「社会的価値次元におけるリバタリアン-権威主義軸」という二つの政策次元における政党の政策位置を政党の政権公約を基に把握し、政権の政策位置の時系列での動向を推定した。また、それを説明変数として用い、子育て支援施策に対する政党政治の影響を計量分析した。今後は、子育て支援施策の規定要因分析で用いた説明モデルと方法論を労働市場政策に拡張して、政党政治が積極的労働市場政策などに与える影響を探る。また、2012年度に用いた多変量回帰分析の手法ではうまく分析できない変数に対処するため、質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis: QCA)の子育て支援施策および労働市場政策の規定要因分析への応用の可否を探る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・学会およびワークショップ参加費 研究発表や情報収集・意見交換のために、社会政策学会、日本比較政治学会、日本政治学会の研究大会に参加する。また、質的比較分析の分析手法に習熟するため、欧州政治学会主催のワークショップに参加する。 ・資料収集費 研究を遂行する上での説明対象の情報を収集するため、国内外の子育て支援施策および労働市場政策に関する文献を収集する。また、比較政治学の最先端の研究水準を把握するために研究書を購入し、計量分析や質的比較分析の方法論の資料の収集にも費用を費やす。 ・その他 研究を進めるうえで必要な、抜き刷り作成費、郵送費、プリンタートナー、文房具類などに支出する。
|
Research Products
(8 results)