2012 Fiscal Year Research-status Report
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24730137
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
草野 大希 埼玉大学, 教養学部, 准教授 (90455999)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アメリカ外交 / ウィルソン / 介入主義 / リベラリズム |
Research Abstract |
本研究は、1910年代に実施されたウィルソン大統領による中南米への介入政策を冷戦後の国際社会で高まる「リベラル介入主義の起源」と位置づけ、その特徴ならびに可能性と限界を明らかにすることを目的とするものである。 平成24年度の研究実績は大きく分けて2つある。第一は、1915年7月から始まる米軍のハイチ占領およびアメリカによるハイチの財政的管理に関する米外交資料の収集・調査・分析を行い、ウィルソン政権がハイチ介入を決断した理由および介入の実施状況を検証したことである。資料収集に関しては、当該事例に関する二次資料(例えばH.SchmidtやD. Healyなどの著作)を中心に収集した。資料の分析の結果、暫定的ながら次のような特徴が浮かび上がった。①アメリカ側のハイチ民主化に対する「役割」意識の強さ、②米軍進駐とアメリカ人による財政管理を正当化・合法化する「条約」の重要性に対する理解、そして③結果として「強権化」するアメリカの占領とハイチの人々による抵抗、である。①②は、ウィルソン政権による介入が単なるアメリカの「国家利害」の産物でなかった(理論的にいえば「複雑な行動」であった)ことを示唆する。他方、③には、①②の要素がありながらも、実態としては外国の「強制」であるリベラル介入の困難さが示されている。残念ながら、当該年度においては、これらを体系的にまとめた論文を執筆するまでには至らなかった。それは来年度の課題である。 第二の研究実績は、ウィルソンの介入主義を含む、20世紀初頭におけるアメリカ介入主義の国際的な正当性をめぐる(米州諸国間の)社会的相互作用の論理を明らかにしたことである(論文として刊行)。ウィルソン政権による民主主義の理念を掲げた対メキシコ介入や汎米条約形成の試みの意義を、同時代のアメリカ介入主義の文脈において考察した研究成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の研究計画では、ウィルソン政権による介入政策の事例のうち、ハイチに対する介入政策の①資料収集と②分析を終了させることになっていた。 ①については、上述のように、二次資料の収集はかなり進んだが、一次資料の収集については、当初計画していたアメリカにあるアーカイブ(Woodrow Wilson Presidential Library and Museum, Virginia; Library of Congress, Washington, D.C.; The Seeley G. Mudd Manuscript Library, Princeton University, New Jersey)を利用した資料収集を実施できなかったため、その達成度が低くなっている。 ②については、収集した資料を時系列的にまとめた上で、その内容を吟味・分析することを予定していたが、その作業を完遂させるまでには至らなかった。 また、研究計画では、当該年度と平成25年度に渡り、ドミニカ共和国に対する介入事例の検証(資料収集を含む)を行うことを予定していたが、主として当該年度での作業を予定していた資料収集については、上記アーカイブでの資料収集に遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の9月から3月までの期間は、アメリカでの在外研究を予定している。このため、日本で研究を行うよりも、アーカイブを利用した資料収集の面で研究の大幅な促進が期待できる。また、研究テーマに関連したアメリカの研究者との相互交流を親密に行い(論文の草稿に対するコメントやワークショップへの参加など)、研究の一層の精緻化を図りたい。少なくとも、この時期は研究に集中できるので、その時間を有効に使い、研究の完成を成し遂げたい。 他方、在外研究までの日本国内にいる期間においても、すでに収集した資料による解析をすすめ、論文の執筆を進めてゆきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究費が発生した主な理由は、当初計画していたアメリカでの資料収集を行うことができず(大学の学務・教務上の理由によりその時間を作ることができなかった)、それを想定した旅費・謝金等の支出が発生しなかったことによる。加えて、図書(物品費)の購入も予定していたほどの額には至らなかった。次年度は、アメリカでの在外研究を予定しているので、それに関わる旅費を中心に当該研究費を使用したい。
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