2013 Fiscal Year Research-status Report
「ポスト・ネオリベラリズム」時代の金融秩序のあり方ー日米英の金融制度の比較研究
Project/Area Number |
24730156
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
安高 啓朗 立命館大学, 国際関係学部, 准教授 (90611111)
|
Keywords | グローバル金融秩序 / ポスト・ネオリベラリズム / 埋め込み / 政策レジーム |
Research Abstract |
本研究は、金融危機後あらためて高まった「ポスト・ネオリベラリズム」時代におけるグローバル金融秩序のあり方について、カール・ポランニーの「埋め込み」概念を一つの手がかりに、グローバル金融が社会に埋め込まれるうえでの制度の特性と多様性について明らかにすることを目的としている。平成25年度は引き続き、「埋め込み」概念をグローバル金融の分析枠組みとして再構築するとともに、金融秩序の「埋め込み」に関する理念型である「政策レジーム」の理論的枠組の発展・深化を目標として研究を行った。 このような目的のため、本年度は二つの側面について研究を進めた。第一に、制度的配置としての「埋め込み」概念の比較可能性を検討するために、国際社会を成り立たせている制度枠組みである「一次的制度」としての市場についてさらなる探求を行った。市場の史的形成について、その規則、制度や文化的基礎を明らかにすることは、経済がどのような「場」に埋め込まれるのかを考えていくうえで重要であると考えられるからである。この成果の一部は『英国学派の国際関係論』の一章として刊行された。第二に、「政策レジーム」の多様性が生まれてきた歴史的文脈について、制度としての(国際)市場が近代西洋から誕生して単線的に発展してきたとするヨーロッパ中心主義的な見方について批判的に検討した。グローバル・ヒストリーの興隆が示すように、「政策レジーム」の理念型化を進めるにあたっても、「比較」と「関係」に根ざした理論的枠組みの考察は不可避である。この成果の一部は国際シンポジウムの報告に結実した。 このように、本年度では引き続き経済と社会を結ぶ多様な「制度的配置」についての理論的知見を深めた。また、イギリスの公文書館にて(パイロット・スタディとなる)史料収集も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進捗状況を踏まえた本年度の達成度については、本研究の目的である、1)「埋め込み」概念の批判的検討と、国際政治経済学におけるグローバル金融研究への位置づけを明らかにすること、ならびに、2)金融が社会に埋め込まれている「程度」を理論化し、「政策レジーム(policy regime)」という形で理念型を提示すること、については一定の前進ができたものの、3)一次史料を活用した日米英の金融制度についての実証研究については本格的に着手できていない。 その理由としては、資本主義の多様性や埋め込みをめぐる議論が主として行われている経済社会学と国際政治経済学を接合していく試みが新領域に属するため、確立された方法論が存在せず、理論的な試行錯誤が繰り広げられていることが挙げられる。たとえば、経済社会学的研究が多く発表されている『Economy and Society』や『Socio-Economic Review』などのジャーナルではアクター・ネットワーク分析などが活用されているが、こうした個人や企業を主な対象とした分析を国家や社会を前提とする国際政治経済学にどのように接合していくかについては多くの議論が存在する。すなわち、同研究対象・分野に貢献する第一の方法は理論的アプローチにあると考えるため、実証研究よりも理論研究を重視した結果として、実証部分の進捗は遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進については、二つの方策を念頭においている。第一に、「埋め込み」や「資本主義の多様性」をめぐる最新の研究をとりまとめたうえで、「政策レジーム」の類型化作業を完成させることである。そのために、国際社会における「一次的制度」としての市場の規則、制度や文化的基礎について、とくに華夷秩序や朝貢貿易体制などを国際政治経済学(国際関係理論)に包摂しようとする最近の試みを参照しながら、さらに検討を加える。また、経済社会学と国際政治経済学の関係性についても併せてとりまとめることで、今後の研究に生かしたい。第二に、理論研究に重心をおくにしても、実証部分についても一定程度道筋をつけたいと考えている。そのために、引き続き史料を、入手可能性を含めて検討を行う。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
必要な物品等を購入した結果として当該未使用額が生じた。 少額の未使用額を含む次年度の予算は、研究の推進方策に従い、理論研究を進めていくための書籍など物品の購入、および実証部分を拡充する史料収集のための調査旅費として使用することを想定している。
|