2013 Fiscal Year Research-status Report
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24730169
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
山森 哲雄 高崎経済大学, 経済学部, 准教授 (50552006)
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Keywords | 貨幣錯覚 / 労働市場 / 経済学実験 / 相対賃金仮説 / チープトーク |
Research Abstract |
本年度は、昨年度実施した実験を論文「An Experimental Study of Money Illusion in Intertemporal Decision Making」にまとめるとともに、「研究実施計画」の【課題4】(相対賃金仮説の検証)と【課題5】(労使紛争におけるコミュニケーションの役割)に関連した実験を下記の通り実施した。 相対賃金仮説の検証(4月・7月):相対賃金仮説とは、労働者が実質賃金よりも、自分と同じ特徴(学歴など)をもった他の労働者との相対的な賃金を重要視するという仮説である。本年度4月に実施した実験では、Gift-Exchange-Gameをベースに、労働者の(使用者との間で生じた)互恵性に基づく労働意欲が労働者間の相対賃金とどのように関連しているのかを検証した。労働者の労働意欲が相対賃金の影響を受けるのであれば、使用者が相対賃金を一定に保つことで、名目賃金の切り下げによる労働意欲の減退が抑制される可能性がある。実験結果は、労働者の労働意欲と相対賃金は無相関であるというものであり、相対賃金仮説を支持する結果を得ることができなかった。使用者と労働者の情報構造を変更するなど、実験設計を見直したうえで7月に再実験を実施したが、やはり仮説を支持する結果は得られなかった。 労使紛争におけるコミュニケーションの役割に関する実験(12月):【課題5】は、労働市場における賃金の硬直性を緩和し、効率的な資源配分を実現する方法として使用者と労働者のコミュニケーションが有用であるか否かを経済学実験によって検証するというものであった。本年度12月に実施した実験では、労働契約が不完備である場合に、労働者の希望賃金という「声」が労働市場の総余剰にどのような影響を与えるかを検証した。公表前であるため実験の詳細と結果については割愛する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度実施する予定であった実験に加え、来年度に予定していた課題5に関連した実験を前倒しで実施することができた。当初の予想に反して相対賃金仮説を支持する結果は得られなかったものの、コミュニケーションに関する実験では、過去の実験で観察されなかったコミュニケーションの新たな効果について検出することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、昨年度と今年度に実施した実験の設計をそれぞれ見直した新たな実験を来年度5月までに実施する。昨年度の実験では、物価変動をともなう動学的最適化問題に直面した消費者が、貨幣の実質的価値を合理的に無視するという実験結果を得た。この結果は、物価変動の大きさに応じた意思決定の違いを観察することによって得られたものであるが、現実の金融政策への含意を導くためには物価変動の大きさだけでなく、そのトレンド(インフレ・デフレ)の効果についても検証する必要がある。また、今年度に実施したコミュニケーションに関する実験は不完備契約の状況に注目していたが、完備契約と不完備契約ではコミュニケーションの効果が異なる可能性がある。労働市場におけるコミュニケーションの役割をより詳細に分析するため、来年度は実験設計を完備契約に変更して同種の実験を実施する。 物価変動に関する新たな実験は、今年度にまとめた論文「An Experimental Study of Money Illusion in Intertemporal Decision Making」とは別の論文としてまとめる予定である。また、コミュニケーションに関連した一連の実験結果をまとめて来年度中に論文を執筆する。時間的な余裕があれば、労働者からの一方的な「声」だけでなく、使用者側からの「声」、双方向のコミュニケーションの効果を検証する実験も実施する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
来年度実施を予定していた実験を本年度12月に実施することになり、来年度予算を前倒ししたものの、参加した被験者数が想定を下回ったために予算の未使用分が生じた。 被験者数が少なかったために本年度12月に実施できなかったトリートメント(完備契約のバージョン)を来年度の早い時期に実施する。繰り越した経費は実験用備品、実験スタッフと被験者の謝金に充てる予定である。
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