2013 Fiscal Year Research-status Report
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24730173
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
山田 知明 明治大学, 商学部, 准教授 (00440206)
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Keywords | 動学的一般均衡理論 / 経済格差 / 再分配政策 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、まずは個票データに基づく実証的ファクトの整理を行った。総務省統計局に「家計調査」及び「全国消費実態調査」について第33条申請を行い、1981年から2008年までの個票データを再取得した。 バブル崩壊以降、日本的雇用慣行は大きく変化したと考えられている。その一つが年功賃金への影響である。大企業を中心として年功序列型賃金の影響は未だに色濃く残っているものの、多くの先行研究で賃金カーブの傾きが緩やかになっている事が指摘されている。もし賃金カーブがフラット化したのであれば、ライフサイクルにおける家計消費にもそれが反映されている可能性がある。家計消費は個人の経済厚生に直結する変数であり、財政政策などの政策効果を測る際にも重要になる。個票データを用いて、詳細に分析をしたところ、半耐久財・耐久財のようにライフサイクルでの消費支出パターンが変わっているものと、家庭での食費のように時代の影響を受けないものが存在していることが明らかになった。マクロ経済の総需要は家計消費を年齢でウェイト付けた総計であることから、この実証的事実は総需要の将来予測にも重要な意味を持つ。 1980年代から90年代にかけて日本の所得格差は拡大傾向にあるが、80年代の格差拡大を牽引したのが高所得階層の伸びであるのに対して、90年代に入ると低所得階層の所得低下が見られる。そこで構造変化を推計したところ、下位層20%、上位層20%共に90年代の所得の伸び率にブレイクが存在することが確認された。同時に、経済格差の各種指標や所得と消費の相関についても1990年代に構造変化が起こっている。これらを説明する最大の要因がTFPである。シミュレーション分析を用いて、TFP成長率の低下は所得と消費の相関の低下を引き起こすことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトの目的は、1990年代から2000年代にかけてのいわゆる「失われた10(20)年」が、世代間格差と世代内格差を通じて、ロストジェネレーション及びそれ以外の世代にどのような影響を与えたのかを定量的に分析することを目的としている。この目的のために、データに基づくファクトの整理、定量的モデルに必要になるパラメターの推計及び動学的一般均衡モデルが必要になる。 研究対象が、(a)TFP成長率の鈍化といったマクロ経済環境の変化、(b)日本の労働市場と(c)ミクロレベルでの家計の消費・労働供給の意思決定の間の関係性になることから、マクロデータとミクロデータの両面からアプローチをしていく必要がある。労働経済学者を中心として、(b)の日本の雇用市場の分析は精力的に行われてきたものの、(a)マクロ経済変数との関係性については研究が不足しており、ファクトの整理も不十分である。そこで個票データに基づいて(c)の経済格差や家計レベルでの所得と消費の相関といった変数の時系列データを作成して、時系列分析を行い、モデルのターゲットになるファクトの積み上げを行った。 最終的なゴールは、ロストジェネレーションの厚生評価を世代間と世代内の異質性を同時に考慮した形で定量的評価に耐えうるモデルを構築することである。2012度はその前段階として、世代間格差が分析できるAccounting Exercise用モデル(部分均衡モデル)を構築したが、2013年度はそのモデルを家計の意思決定について拡張して、一般均衡分析が出来るようにした。まだカリブレーションをより精緻にする等の課題は残されているものの、各種政策評価や反事実的実験を行なうフレームワークは出来ており、研究計画は順調に消化していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度に行った個票データに基づくファクト整理は、理論モデルとの整合性を最終的に詰めるための試行錯誤を行っている途中であり、完成に向けて更なるまとめ作業が必要になる。最終年度である2014年度はファクト整理を完成させた上で、それを説明する動学的一般均衡モデルに基づいて政策評価を行なう。 (1)ロストジェネレーションの厚生評価を行なうために、各世代の消費活動の違いを個票データから推計し、それと整合的な動学モデルを構築する。そのモデルに基づいて流動性制約の緩和や税制改革、世代間所得移転などの政策がどの程度の政策効果を持つのかを定量的に分析する。また、年齢毎あるいは世代間で消費行動が大きく異なることから、人口動態の変化が総消費に大きく影響を与えると考えられる。そのため、動学モデルに基づいた将来予測も行なう予定である。 (2)データによると、経済成長率の鈍化といったマクロ経済環境の変化は高所得階層と低所得階層に対して非対称的な影響を与えている。このような事実が観察される背景として、1980年代から90年代にかけて教育政策や人的資本蓄積、労働・資本と技術の補完あるいは代替関係が変わってきたことが考えられる。これらは世代間及び世代内の富の配分に大きな影響を及ぼしていると考えられるが、この問題を正確に扱うのは容易ではない。個人は、将来の労働市場で必要になってくるであろうスキルなどを予想して、教育投資を決定しているはずである。そのため、個人の教育及び労働供給の意思決定を考慮した動学的一般均衡モデルを構築して分析を行う必要がある。ロストジェネレーションの分析は、日本の雇用環境、労働供給及び教育・人的資本蓄積が最終ゴールになるため、このモデルを用いて、家計の消費活動及び政策効果を分析する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度に支出を予定していた英語論文の英文校閲費用について、専門家に校正をお願いする前に、まずは自分で文章を書きなおして、よりクオリティの高い英文を校正してもらうほうが適切と判断した。 現在、英語論文の改訂執筆作業が進行中であり、英文査読誌に投稿する前に、専門家に校正を依頼する予定である。
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