2013 Fiscal Year Research-status Report
非伝統的金融政策に関する実証研究:効果と副作用の比較分析
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24730249
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
立花 実 大阪府立大学, 経済学部, 准教授 (70405330)
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Keywords | 金融政策 / 非伝統的金融政策 / 量的緩和策 |
Research Abstract |
日本における伝統的金融政策と非伝統的金融政策のマクロ経済に及ぼした効果をそれぞれ推定し、両者間で比較を行った。ただしここでは、低金利下でかつ超過準備が発生した1998年6月以降を「低金利期」、それ以前を「通常期」と定義して、両期間における効果の測定および比較を行った。(正確には非伝統的金融政策は2001年3月~2006年3月および2010年10月以降を指すが、サンプル数の都合上、それら以外の期間も含む「低金利期」を分析対象期間とした。)推定方法としては符号制約VARのアプローチを用いた。得られた結果は以下の通りである。まず質的には、両期間で金融政策ショックはほとんど変わらない効果を持っていることが示された。すなわち、(1)物価と生産をともに引き上げる、(2)物価と生産のどちらかのみを引き上げる、(3)物価と生産をともに下落させてしまう(効果なし)という現象の発生確率が2期間でほぼ同じとなった。次に量的には、両期間それぞれにおいて1標準偏差の金融政策ショックがほぼ同程度だけ生産を引き上げるという結果が得られた。しかしその一方で、金融政策ショックの大きさを両期間で揃えた場合には、低金利期の金融政策の効果は通常時と比べ小さいことが分かった。これは低金利期の方が通常時よりも金融政策ショックの規模が大きかったことに由来する。本研究結果は、低金利下でも十分な政策効果を得ようとするならば、日本で実際に行われたような通常期よりも大胆な政策発動が必要であることを示唆している。また、専門家の間では非伝統的金融政策には効果があるという意見と効果は認めらるものの限定的であるという意見が対立しているが、本研究は一見相反しているように見えるこれら両主張に整合性を与える点でも意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H25年度に行った研究では、過去に自身が共同研究者として携わった本多・黒木・立花(2010)や本多・立花(2011)のVARを用いた研究をさらに発展させることができた。具体的には、既存研究では原始的なVARモデルが用いられたが、本研究では符号制約VARという理論モデルとより親和性の高い手法を取り入れることができた。さらに、既存研究では量的緩和期のみあるいは低金利期のみを分析対象としていたが、それらの時期の金融政策の効果を通常時と比較することにも成功した。以上、非伝統的金融政策の効果に関して本研究は既存研究にさらに高度な科学的証拠を加えることができたという点で、本研究課題の目的の一部を達成できたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究には、以下の点でまだ課題が残されている。まず、短期金利と準備預金の関係が期間ごとに線形であるとの仮定がなされている。しかし、低金利期には量的緩和期と低金利政策期が混在しており、この仮定が妥当なものであるかは疑問の余地が残る。この問題に対処するために、状態変化を伴うモデルを組み込むことが考えられる。また、本研究では期待の役割については取り扱ってこなかった。期待の変化を通じた非伝統的金融政策の効果を推定するためには、金融市場の変数を導入する必要がある。以上の点を踏まえながら、H26年度は研究を進めていく予定である。
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Research Products
(3 results)