2012 Fiscal Year Research-status Report
マイクロデータを用いた再分配政策の評価に関する研究
Project/Area Number |
24730263
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Research Institute of Economy, Trade and Industry |
Principal Investigator |
中田 大悟 独立行政法人経済産業研究所, その他部局等, 研究員 (10415870)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 労働供給 / 所得再分配 / 相対的貧困 / 公的年金 |
Research Abstract |
平成24年度は、計画された研究課題のうち「社会保障と課税の構成が所得再分配と就業行動に及ぼす影響に関する分析」をスタートさせた。それらの研究結果は「税・社会保障の所得再分配効果~JSTARによる検証~」という論文にまとめられた。これは学会発表を経て独立行政法人経済産業研究所ディスカッションペーパーシリーズの論文として一般公表され、さらなる分析発展のために改訂作業の中にある。 この論文では、JSTARの個票データを使用し、中高齢世帯における課税給付前後の等価可処分世帯所得分布のカーネル密度推定を行い、税・社会保障制度が所得分布にどのような影響を与えているかを確認し、中高齢者世帯における相対的貧困世帯化を、家族構成、精神的・身体的健康状態、学歴、就業経歴、資産、住居、年金受給等を説明変数としてパネルプロビット分析している。そしてそのうえで、同論文では、高齢者個々人のExtensive Marginの労働供給がどのような要因に規定されているかのパネルプロビット分析まで行っている。そこでは、実質的に報酬比例年金化している国民年金の影響を受けて、公的年金給付が必ずしも十分な防貧機能を果たしているとは言えず、高齢者自身の自助努力が年金と同程度の防貧効果を果たしている可能性が示された。 また、高齢者自身の労働供給に公的年金の受給が強い影響を与えている事が既存研究同様に確かめられたが、年金の労働供給抑制効果は高額年金受給世帯に限った現象であり、低年金層に有意な要因たり得ていない点が新規に確かめられた。さらに、CES-D、IADL等で客観的に計測された高齢者の精神的・身体的健康状態が労働供給に一定の影響を与えていることも分かった。これは、今後、高齢者の自助努力を無理なく引き出すためには、金銭的動機付けだけでなくQOLを高めるようなケアの環境整備が重要であること示しているものとおもわれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に比して、概ね、研究課題は予定通りに分析が進めてられているが、若干、遅れ気味になっている点も見受けられる。特に、研究計画では「所得、支出報告に関する系統的ミスリポートが生じる要因に関する分析」についても研究を開始するものとしていたが、まだ十分な分析結果を蓄積できていない。この原因は、当初は平成24年度の早い段階でJSTARの3rd waveデータが入手可能になるという見込みで計画していたものの、調査地点の選定などの影響を受けて、データが入手できたのが年度末の時期になってしまったことにある。もっともそれまでは2nd waveまでのデータを利用して分析は進めているので、これらを出発点に、さらなる分析が平成25年度中には蓄積できると考えている。 また、既に公表している論文についても、当初の計画では、最適課税問題のフレームワークを援用してExtensive Margin、Intensive Marginの弾力性についての離散選択型の構造推定も行うものとしていたが、現在のところ、誘導型のExtensive Marginの弾力性推定にとどまっている。今後の分析で、推計方法のさらなる精緻化が望まれる点であるため、このポイントについて集中的な分析の改訂作業を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に公表した論文は、所得分布に関する分析、貧困の要因分析、労働供給の要因分析の三種の研究をひとまとめにした包括的な分析であったため、平成二十五年度は、これらをティバイドして、個々の分析をより精緻化した上で、国内外の査読ジャーナルに投稿し掲載を目指すこととする。 さらに、今年度は、研究計画にある「社会保障給付と健康が再就業行動と幸福度に与える影響に関する分析」についての分析も開始する。前年度の研究とテーマとして密接な関わりを持つものであるが、JSTARデータの蓄積が進む中で、定年前後の中高齢者の引退仮定が多様なものであることが分かってきており、かつ、定年後に再就業したり、すでに引退を決めてから数年後に就業を再会するケースが多いことが分かっている。JSTARの利点は、パネルデータとして同一人物の過去の就業形態と新規の就業形態を、その間の健康・家族関係・心理面での変化と併せて使用できるという点にある。本研究では、社会保障給付の変化のみならず、家族関係(例えば死別・離婚など)をコントロールしたうえで、中高齢者の再就業行動を幸福度との同時決定性に留意しながら分析を進めていきたいと考えている。 また、上記の研究すべてにおいて、これまでJSTARの2nd wave(七都市)までのデータセットを利用したものであったのを、3rd wave(十都市)までに拡大して分析を実施する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成二十五年度の研究費使用計画としては、研究のためのハードウェア・ソフトウェア更新と、研究成果発表のための学会参加、ならびに論文などの基礎資料の整備に使用する予定である。特に、分析を実施しているパソコンに関しては、既存のものが経年劣化の為に、故障の頻度が高くなっており、早期に更新することを考えている。
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