2013 Fiscal Year Research-status Report
マイクロデータを用いた再分配政策の評価に関する研究
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24730263
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Research Institution | Research Institute of Economy, Trade and Industry |
Principal Investigator |
中田 大悟 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 上席研究員 (10415870)
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Keywords | 生活保護 / 健康 / 就業 / 年金 |
Research Abstract |
研究実施計画では、高齢家計の同居選択と就業行動に関する分析を実施する予定であったが、想定外のデータの不備が生じたため、本年度は、家計の就業行動と強い関連をもつ生活保護制度について、50歳以上の中高齢者を対象として実施されているパネル調査、「くらしと健康の調査」(Japanese Study of Aging and Retirement, JSTAR)の2007年、2009年、2011年調査の個票データを用いて、どのような中高齢家計が生活保護を受給しているのか、という観点からの実証分析を行った。 本分析において、得られた主な結論は以下の通りである。まず、高齢者自身の潜在的稼得能力や家族からの扶養は、一定の防貧機能を果たしているが、独居や都市部居住などの住居形態は高齢者の生活保護受給確率に強い影響を持っている。また、本人の生活習慣、特に酒・タバコといったアディクション財への支出は、確定的な影響を与えていなかった。特に、飲酒が明確な影響を与えていないことから、必ずしも、個人の規範が生活保護受給の遠因と成っている訳ではないことが推察される。 さらには、消費支出における必需品需要の過多が、受給について一定の影響を与えていることがわかった。つまり、同程度の支出総額の家計間の比較でみれば、必需品を多く需要する家計であればあるほど、生活保護の受給確率は有意に高まる。健康と生活保護受給の関係をみた場合、身体的な健康状態も一定の影響を与えているが、それよりも精神的な健康状態の方が圧倒的に強い影響を与えていた。以上を鑑みると、高齢者が都市部の生活においても孤立せず、QOLが保たれた生活を送るための支援を行うことも、貧困対策として一定の効果を持ち得ることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究目的において、当初は高齢者の同居選択、遺産行動と健康との関係に着目した分析も実施する予定であったが、分析に使用するデータ「くらしと健康の調査」の2011年度データにおいて、調査機材等の不具合により、同居親等の有無やその健康状態、介護状態についてのデータが欠落していることが判明し、分析の実施が困難となった。これらのデータについては、さらに次の2013年に実施された最新回データにおいて、回顧調査がなされていることから、研究期間中に回復が可能であると考えているが、平成25年度中の分析には、間に合わせることができなかった。 そのため、急遽予定を修正し、「給付と健康が就業行動と幸福度に与える影響」の研究テーマに注力し、特にこれまでマイクロデータを使って実証分析がなされることがほとんどなかった生活保護制度と健康、幸福度との関係性に着目した分析を実施することとした。 生活保護制度が、強い就業抑制効果を持つ可能性は広く知られているが、実際にデータに基づいて、国内でこれを検証た研究はほとんど存在せず、また、客観的・主観的健康状態や、精神的健康状態、家族状況、居住地状況をコントロールするだけではなく、家計支出の特性にまで着目して分析していることから、研究の目的に強く合致した研究成果となっていると考えている。 ただし、上述の欠落データに関しては、やはり分析から外さざるをえなかったことから、これらの回顧データの整理を進めて、分析のおくれを回復させる必要があると考えている。また、当初の予定であった同居選択、遺産行動の分析も準備を急ぐ必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度における研究成果は、生活保護制度に焦点をあてた分析であったが、扶助制度だけでなく、年金や医療給付が就業行動と幸福度に与える影響までは分析を完結させていないので、本年度はそれらの点についても研究を実施する。 また、分析に用いる「くらしと健康の調査」が、調査回数を重ねてきたことから、所得、支出報告に関する系統的なミスリポートに関する分析を実施するに足るだけのサンプルサイズが確保できつつあると考えている。研究計画期間内に分析を完了させるためにも、この点についての準備、解析も今年度から進めていく。 平成26年度は、これまでの研究成果をリバイスして、国内外の学術雑誌に論文掲載することを目的として、研究を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学会出張における旅費として支出予定であった金額が、参加予定学会が首都圏開催であったため、交通費・宿泊費を必要としなかったため。 本年参加予定の学会の多くは、首都圏以外における開催のため、その際の交通費、宿泊費として支出する予定である。
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