2014 Fiscal Year Research-status Report
マイクロデータを用いた再分配政策の評価に関する研究
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24730263
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Research Institution | Research Institute of Economy, Trade and Industry |
Principal Investigator |
中田 大悟 独立行政法人経済産業研究所, 研究グループ, 上席研究員 (10415870)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生活保護制度 / 福祉給付 / 社会保障 / 地方財政 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、50歳以上の中高齢者を対象として実施されているパネル調査、「くらしと健康の調査」(JSTAR)の2007年、2009年、2011年調査の個票データを用いて、生活保護制度の受給要因についての実証分析の研究を中心に実施した。推計手法としては、パネルロジット分析、プールドロジット分析、へキット分析を用いた。本研究で得られた主な結論は以下の通りである。まず、高齢者自身の潜在的稼得能力や家族からの扶養は、一定の防貧機能を果たしているが、独居や高齢夫婦単独世帯、都市部居住などの住居形態の差異は高齢者の生活保護受給確率に強い影響を与えている。配偶者との離死別経験は女性にとっては有意な需給要因となるが男性については有意な影響を与えない。本人の生活習慣、特にアディクション財への支出は、喫煙習慣については有意に正の影響を関係を与えているが、飲酒については逆に負の影響を示している。これは中毒財の影響は一様ではないことを示している。さらには、消費支出における必需品需要の過多が、受給について一定の影響を与えていることがわかった。つまり、貧困世帯のうち一定割合は、経済的に合理的な選択として受給を選択している可能性がある。また、調査対象者の居住都市の自治体における債務返済比率が、受給確率に有意に負の影響をあたえることを確認した。これは、いわゆる「水際作戦」と言われる福祉事務所の行動の一部を説明している思われる。すなわち、財政状況がよくない自治体ほど、受給者をより選別してる可能性がある。また、健康と生活保護受給の関係をみた場合、身体的な健康状態も一定の影響を与えているが、それよりも精神的な健康状態の方が圧倒的に強い影響を与えていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では、同居選択と遺産選択に関する分析を行うこととしていたが、分析に使用するデータ(JSTAR)の最新回データに、調査機材の不具合によるデータの欠落が生じており、そのため、この分析の実施を遅らせている。ただし、この欠落データは、最新回調査において、回顧調査を行っており、それを合わせればデータの復旧が可能となっている。そのため、今後、最新回データが利用可能になった段階で、すみやかに実施する予定であるが、現在はデータのクリーニングを行う段階であり、分析には至っていない。クリーニングが完了次第、データ分析を実施する。 今年度は、同居選択、遺産行動の代わりに、生活保護制度の受給要因分析と寄付行動の行動分析を行った。前者の生活保護制度についての分析は、配偶者との離死別経験や、健康状態などが貧困に陥るリスクとしてどの程度の影響をあたえるのか、という点について、客観的な評価を与えるものであり、今後、独居世帯の高齢者が増える日本において、重要な分析課題となっているものと考える。 後者の寄付行動に関する分析については、JSTARは、東日本大震災前後を同一地点、同一対象者を用いて、パネルデータとして収集されたデータであるが、これを用いることで、意図せざる災害が生じた際の、人々の利他的な行動について分析が可能であるし、また、近年、新しい公共という概念で整理される、非営利団体の財源確保という観点からの政策立案の基礎情報として提供可能な分析が実施できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
生活保護制度に関する分析については、学会、研究会等での発表を経て、分析の精度も高まりを見せているので、早期に査読付き学術雑誌への掲載を目指す。 寄付行動に関する分析は、すでに草稿となっており、今秋の日本経済学会、日本財政学会等の学会発表、また、各種研究会での公表を予定しているので、それらのプロセスの中で、なるべく早い段階で投稿することを予定している。 また、今年の夏には、分析に使用するデータ(JSTAR)の最新回が利用可能となる見込みであることから、これを利用して、同居選択、遺産選択に関する分析を実施するものとする。
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Causes of Carryover |
参加予定学会が比較的、均衡で行われていたことと、購入予定であったPCについて、現在使用しているモニター等をそのまま転用すれば、比較的安価に、必要な性能の機材一式を調達できることが分かり、費用の節約を図ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ソフトウェアとPC、プリンター等の機材の更新費用と、27年度に発表予定の学会等の出張費用として仕様する予定である。
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