2012 Fiscal Year Research-status Report
中国の経常収支黒字と所得格差:貿易財・非貿易財モデルによる理論分析
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24730282
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
五百旗頭 真吾 同志社大学, 商学部, 准教授 (30411060)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 経常収支 / グローバル・インバランス / 貯蓄投資バランス / 中国 / 所得格差 / 非貿易財 |
Research Abstract |
本研究の目的は、2部門開放マクロ経済モデルを用いて、中国の経常収支黒字拡大と所得格差拡大の同時発生メカニズムを解明することである。そのためには、まず1部門モデルで描写できるメカニズムを明らかにし、それとの比較で2部門モデルを用いないと描写できないメカニズムを明らかにする必要がある。平成24年度には、1部門モデルを用いて、「低所得水準からの高度経済成長」が中国の経常黒字拡大要因となりうることを明らかにした。 第一に、二国間の経済成長率格差と経常収支の関係を二期間モデルで再検討し、「期待成長率の高い国ほど資本が流入し、経常収支赤字になる」とする仮説が成り立つには、消費関数が限界効用の消費弾力性一定という性質を満たす必要があることを証明した。限界効用の消費弾力性が消費量に対して逓増的ないし逓減的な消費関数の場合、当該国の経済発展度も上の仮説の成否を左右する要因となる。なかでも消費水準が高いほど限界効用の減少率が早まるケースでは、経済発展度が低くかつ期待成長率の高い国ほど経常収支黒字を生むという結果を得た。この関係は中国の所得水準、期待経済成長率および経常収支三者の動向と整合的である。 次に、効用関数が限界効用の消費弾力性一定という性質をもつ場合には、初期対外純資産が大きいほど経常収支赤字が大きくなる、ないし黒字が小さくなることを明らかにした。なぜなら初期対外純資産の増加は現在と将来の両方における所得上昇を意味するため、当該国の将来消費の限界効用が相対的に低下するからである。この結果は経常収支の中期変動要因を分析した既存実証結果と正反対であり、既存研究では時間選好率など他の有効な説明変数が見落とされていた可能性を示唆している。また、中国の対外純資産の蓄積がさらなる経常黒字を作り出す、というメカニズムは必ずしも存在しない可能性も示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」に掲げた「貿易財・非貿易財部門からなる2部門開放マクロ経済モデルを構築し、貿易財部門に偏った需要・生産性ショックが部門間所得格差拡大を通じて経常黒字拡大を生む可能性を明らかにする」点については、あと少しで完了見込みである。当初24年度中に理論モデル分析を完了予定としていたことを鑑みると、進捗度は少し遅れている。だが、それは、2部門モデル構築の過程で生まれた疑問点解消のために時間を割いたためであり、その疑問点から2本の論文を執筆できたため、有益かつ不可欠な回り道であったと評価できる。 2部門モデルについては、既に二通りの方法で構築を行い、細部の仮定の現実妥当性を再検討しているところである。25年半ばには論文にまとめる見込みである。また、「研究の目的」に掲げた基本モデルの拡張については当初より25年度以降の完成を見込んでいたため、特段進捗が遅れているわけではない。これらの点から総合的に判断して、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本モデル(貿易財・非貿易財2部門モデル)の論文化・査読付きjournalへの投稿、基本モデルの拡張を順次行う。 第一に、基本モデルを25年8月中に完成させ、国内学会・研究会で発表する。26年度には米国・東アジアの学会や当該年度に客員研究員として滞在したUC Berkeleyにおいて発表を行い、広くコメント・フィードバックを受けて基本モデルの改訂を図りつつ、新たな拡張の可能性を探る。 第二に、基本モデルの拡張を行い、論文化し、英文ジャーナルへ投稿する。拡張は(a)金融資本市場の不完全性の導入と(b)対ドル固定相場制度の導入という二面から同時並行で進め、(a)については遅くとも25年度末までに、(b)については26年8月末までに投稿を済ませる。 また、同時に参加している類似テーマの科学研究費研究グループ(基盤研究(B)「グローバル・インバランスは政策的に制御可能か」、研究代表者:神戸大学・藤田誠一、平成23~25年度)の定例研究会においても論文発表を行い、当該研究テーマに精通した研究者からフィードバックを得て、論文改訂に生かす。 ただし、理論仮説を空想上のものとしてはいけない。そのため、特に25年度は理論モデル構築と並行して、中国の関連データ(所得格差、業態別賃金、部門別労働人口など)の収集・分析にも注力する。また、理論仮説に対するヒントを得るために、中国本土の視察も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の所要研究費のうち34665円を次年度使用に繰り越した。その理由は、当該年度を通して在外研究で米国に滞在していたため、海外出張費が予定よりも商学にとどまったことにある。 次年度繰越額は比較的少額のため、海外渡航費に充てることは難しい。そのため、繰越研究費34665円はグローバル・インバランス関連図書費に充て、次年度以降に請求予定の研究費のうち、当初図書費として予定していた部分の一部を海外渡航費に充当することとする。
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Research Products
(2 results)