2013 Fiscal Year Research-status Report
中小企業の競争力強化に貢献する情報通信技術の戦略的活用モデルについての実証研究
Project/Area Number |
24730324
|
Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
工藤 周平 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (60549153)
|
Keywords | 戦略的情報通信技術活用 / 中小企業 / ICT経営 / 競争戦略 / 実証分析 / 促進要因 |
Research Abstract |
平成23年度に実施した秋田県内の中小企業を対象とするアンケート調査によって収集したデータを用い、中小企業の競争環境と情報通信技術(ICT)活用との関係性を分析した結果、産業別にみると、いくつかの指標で相関関係が確認できた。競争環境の変化が中小企業のIT利活用に及ぼす影響を明らかにすることができた。平成24年度に実施したアンケート調査によって収集したデータを用い、ICT活用効果や製造業におけるICT経営の因果構造の分析を行った。ICT活用効果の因果構造では、業務プロセスの変革を始点に事業規模の拡大、交渉力の強化、効率性の向上が図られ、製品・サービスの高度化が図られるという構造を得た。これまでICT経営効果の因果関係については十分研究が行われていなかったが、本研究によってICT経営効果の企業における波及について1つの示唆を得ることができた。製造業のICT経営の因果構造では、トップリーダーシップがコミュニケーションを主導し、コミュニケーションに基づいてパートナーシップが強まり、ICTガバナンスの水準が向上する。ICTガバナンスの高度化はICT基盤に影響を及ぼし、構築されたICT基盤に基づいてICTスキルの水準が向上するという構造を得た。地方の中小製造企業がIT経営の水準を効率的かつ効果的に向上させるための指針を提供することができた。平成25年8月から9月の期間にアンケート調査を実施し、ICTの戦略的活用の状況、阻害要因、情報システムの状況に関するデータを収集し分析を行った結果、秋田県内企業の戦略的ICT活用を促進するためには、ICTを基盤とした顧客や仕入先との連携やICT資源の制約を克服するための企業間連携が重要課題になることが明らかとなった。地方の中小企業が競争力を維持・強化するために重要となる課題を明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間内に明らかにすることとして、中小企業におけるICTの戦略的活用の現状、中小企業の戦略的ICT活用に対する取り組みの企業間の差異、1980年代のICTの戦略的活用モデルと現在のモデルとの差異の3点を挙げた。中小企業における戦略的ICT活用の現状については、平成23年度に実施したアンケート調査から秋田県内の中小企業の競争環境とICT利活用の現状に関するデータを収集し、現状をまとめた。また平成24年度に実施したアンケート調査からICT活用により獲得している経営効果とICT経営に関するデータを収集し、現状をまとめた。さらに平成25年度に実施した、先行研究において戦略的ICTの阻害要因とされる要因に焦点を当てたアンケート調査から、秋田県内の中小企業の戦略的ICT活用の阻害要因とICTの内容・適用範囲に関するデータを収集し、現状をまとめた。中小企業の戦略的ICT活用に対する取り組みの企業間の差異については、平成23年度から25年度の3回のアンケート調査において、いずれも300社以上の企業から回答を得ており、それらのデータを用いて、競争環境とIT利活用の相関関係の産業間及び事業規模間の差異の分析を行った。また財務実績とIT利活用の相関関係について産業間及び事業規模間の差異の分析を行った。さらに産業特性や事業規模がICT経営の成熟度に及ぼす影響や戦略的ICT活用の阻害要因に関する産業間及び事業規模間の差異について分析を行った。最終年度は中小企業のICTの戦略的活用モデルを構築し、1980年代のモデルとの差異を明らかにする。研究目的の達成に向けて当初の計画通りに研究が進んでいることから、現在の研究状況は概ね順調であると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の主な焦点は、中小企業の戦略的ICT活用モデルを構築し、その妥当性の検証とモデルの洗練化を行うことである。戦略的ICT活用の取り組みと阻害要因の関係、また、戦略的ICT活用の取り組みとICT経営の関係、戦略的ICT活用の阻害要因とICT経営の関係に焦点を当ててより詳細な分析を行うとともに、競争環境・財務実績・ICT経営効果との関係性について分析を行う。これらデータの解析結果に基づいて中小企業の戦略的ICT活用モデルを構築する。本研究におけるこれまでの分析結果から、事業規模や産業によってICT利活用の水準が異なることが示されている。特に従業員数が50人未満と300人以上の企業、また、年間売上高が50億円未満と50億円以上の企業では、ICT利活用の水準に統計的な有意差がみられており、事業規模や産業の違いによる戦略的ICT活用の相違について検討を行い、異なるモデルの必要性について検証する。さらに本研究が提案するモデルの妥当性を検証することを目的に、秋田県内において比較的ICTの利用が進んでいると考えられる企業を対象にインタビュー調査及び小規模なアンケート調査を行う。調査時期は、平成26年7から9月を計画している。文献調査を中心に他の地域や全国の中小企業のICT利活用の状況を調査し、本研究が提案するモデルの他の地域への適用可能性について検討する。最後に、本研究が提案するモデルと1980年代に示されたICTの戦略的活用モデルを比較し、ICTを活用して競争力を強化するための重要課題について中小企業と大企業との違いについて検討を行う。これらを実施することにより、企業がICTを利活用して競争力を強化するための重要課題と指針を明らかにし、今後ますます厳しくなると予想されるグローバル規模の競争の中で地方の中小企業が生き残っていくための1つの方策を提案する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度のアンケート調査によって収集したデータの分析結果について、その妥当性を検証するためにインタビュー調査を実施する計画であったが、より詳細な分析を実施した上で次年度にその妥当性を検証することにし、そのインタビュー調査を実施するための費用として次年度使用額が生じた。 これまでの実地調査に基づいて構築する中小企業のICT戦略的活用モデルの妥当性を検証するための調査研究の1つにインタビュー調査があり、そのための費用として使用する。調査は平成26年7月から9月の期間を計画している。
|