2013 Fiscal Year Research-status Report
日系多国籍企業と「双面性」のマネジメントに関する研究―組織・人材の観点から―
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24730334
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山本 崇雄 神奈川大学, 経済学部, 准教授 (30318761)
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Keywords | 日系多国籍企業 / 海外子会社 / 探索的イノベーション / 活用的イノベーション / 新規事業・市場創造 / 関係性のマネジメント / 埋め込み |
Research Abstract |
3カ年プロジェクトの2年目にあたる、平成25年度の研究実績は以下のとおりである。 第1に、昨年度に引き続き、鍵概念である「双面性(ambidexterity)」に関連する文献レビューを実施した。双面性概念は広範にまたがって研究がなされているため、本年度は以下の領域に範囲を重点的に絞り、レビューを行った。まず、海外子会社の現地ネットワーク構築とイノベーションに関する領域であり、これは現地ネットワークに埋め込まれた(embedded)組織間関係を形成・構築し、維持できなければ、現地コミュニティに求められると同時に、かつ多国籍企業内部にとって新奇な知識にアクセスするのは困難であろう、という仮説に基づくものである。また、社会的ネットワーク(social network)の構築メカニズムに関する研究についても渉猟し、その関連で、社会構成主義からみた知識共有(換言すれば、対話(dialogue)ベースの知識共有)についても文献レビューを行った。今後も継続して行う予定である。 第2に、ケーススタディを実施した。海外では、ベトナム(ハノイ、ホーチミン)、タイ、シンガポールにおける日系海外子会社(商社4社、製造業5社、サービス業3社)にインタビュー調査を行った。本社の一部機能をシンガポールや香港に移管しているケースや、海外子会社独自の事業を行っているケースなど、海外子会社が新規事業の開拓に着手している興味深い発見事実をつかむことができた。これらの一部については、『商経論叢』に掲載ずみである。来年度の前半にかけて、引き続きこれらの調査を継続する予定である。 第3に、今年度公刊したものとしては、海外で編集された英書の1章分に、多国籍企業における双面性についての理論的枠組みについて、われわれの研究成果の一端を掲載することができた(Kuwana & Yamamoto, 2013)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究達成度については、一部計画通り進んでいない面もあるが、おおむね計画通りに進展していると考えられる。 第1に、研究のフレームワークについて、大枠として完成させることができたためである。多国籍企業における「双面性」の達成という現象については、さまざまな視点から分析可能であるが、本研究では、海外子会社を通じたローカルナレッジへのアクセスのマネジメント(=探索的イノベーション)と、バウンダリー・スパナーを通じた新規知識の多国籍企業ネットワーク内共有(=活用的イノベーション)として、双面性をみなすこととした。そして、分析視角としては、本社、海外子会社といったマクロ組織論的な側面のみならず、海外子会社のコア人材やバウンダリー・スパナーといった「ヒト」、すなわちミクロ組織論的な側面からも分析することとした。その理由としては、海外子会社人材が有する企業家精神や、いかに本社とは異なる新しい知識にアクセスしようとするかというモチベーションも、観察すべき重要な要因としてケーススタディにて観察されるためである。 第2に、ケーススタディについては、タイで計画していた企業調査の一部がバンコクでの政情不安により実施できなかったものの、それ以外は予定通り実施することができている。また上述したとおり、一部の海外子会社(特に商社)において、従来のケースとは大きく異なる海外子会社のあり方を展開している事例を調査することができたためである。タイで計画していた企業調査についても、平成26年度前半に実施することによって、問題なく研究を進捗させることができる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる平成26年度は、研究成果のアウトプットを最優先の目標とし、研究推進を行う予定である。具体的には、年度後半に海外学会(ヨーロッパかアジア;12月)と国内学会(国際ビジネス研究学会;11月)にて2回の学会発表を行う予定である。また、学会発表と平行して、査読つき学術誌にも投稿する計画である。なお、海外ジャーナルにも積極的に投稿することを予定している。 こうしたアウトプットを積極的に行うためにも、ケーススタディをできるだけ早く終わらせ、事例分析を行うことが求められる。8-9月にタイ、ベトナム、シンガポールでの企業調査を実施する予定であるが、可能であればそれ以前にも企業調査を行うことも考えている。そして、事例分析について内外の研究者と意見交換を積極的に行い、研究成果の精緻化に努めることとしたい。 なお最終的には、日系多国籍企業の昨今の大きな課題の1つとなっている海外子会社のマネジメントのあり方について、理論的・実践的なインプリケーションを導出し、何らかの提言を行うことが大きな研究目標であると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は全体予算の約1%であり、予算の使用については概ね計画どおり進んでいると考えられる。強いてその理由を挙げるとすれば、ケーススタディにおけるインタビュー調査のテープ起こし作業について、インタビュー内容を理解した人が行った方が整理しやすいために、これまでのところ研究者自らで行っている。そのため、当初予定していた業者への発注がなされていないことが挙げられる。また、バンコク動乱の影響によって、タイ国内における調査活動を行うことができなかったため、若干旅費の使用が予定を下回ったことも原因の1つである。 平成26年度の研究費の使用計画については、以下の通りである。第1に、日系海外子会社(ベトナム、タイ、シンガポール)へのインタビュー調査を8~9月に予定している。また国内外での学会発表を計2回予定しており、およそ45万円の旅費が見込まれる。そして、必要に応じて、国内の拠点訪問調査や、研究協力者との研究打ち合わせも実施する予定である。 第2に、ケーススタディで行ったインタビュー調査のテープ起こしについて、筆者のみで完遂できない場合、業者に発注する。この場合、謝金を10万円前後見込んでいる。 第3に、本課題に関連する文献レビューを実施するために、学術雑誌や書籍の購入を行う。第4に、文房具、PC関連の消耗品、ソフトウェアといった品目が研究遂行上必要となる。第3と第4については、旅費と謝金以外の費用でまかなう予定である。
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Research Products
(2 results)