2012 Fiscal Year Research-status Report
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24730384
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
稲村 由美 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (80583757)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 負債契約 / 会計情報 |
Research Abstract |
本研究の目的は、企業と債権者との間で結ばれる契約(以下、負債契約)において、会計情報がどのように利用されているかを実証研究により明らかにすることである。 具体的には以下の3つに焦点を当てる。すなわち、(1)負債契約において会計数値がどの程度利用されているのか、(2)債権者はどのように負債契約を工夫して設定しているか、(3)負債契約における会計情報の利用は、経営者に利益を調整する動機を与えるか否か。これらの点を明らかにすることは、負債契約における会計情報の有用性を検証できるだけでなく、会計情報が備えるべき特性についても示唆を与えることができる。 現在までのところ、上記3点のうち(1)は当初の予定通りの調査を概ね終了した。具体的には、2004年から2008年の間に有価証券報告書で開示された負債契約内容を調べ、銀行ローン契約における会計情報の利用度及び傾向を明らかにした。その結果、高い頻度で会計数値が利用されること、特に、純資産や利益、負債額に関する規定が多いことがわかった。 これまで我が国では、銀行ローン契約の具体的内容を考察した先行研究が非常に少なく、本研究の調査結果は銀行ローン契約の設定傾向を把握する上で非常に重要であると言える。これに基づき、債権者が負債契約をどのように利用しているのか、経営者行動がどのように変化するのかを考察することが可能になる。 また(2)についても、社債の負債契約に関して、財務諸表上の数値(特に、換金性・負債性のない繰延税金資産・負債)が金利決定に影響を与えるか否かについて検証を行った。その結果、債権者は繰延税金資産を資産として金利に反映させず、繰延税金負債は負債として金利に反映させるという結果が得られた。これは、債権者が会計情報を鵜呑みにするのではなく、自ら取捨選択して負債契約に反映させていることを示しており、重要な視点を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間は2年間 (平成24年度および平成25年度) を予定しており、研究は以下の3つの手順で行う計画である。すなわち、(1)資料収集およびデータベースの構築、(2)負債契約の設定プロセスに関する実証分析、(3)負債契約と利益調整に関する実証分析である。 (1)では、公募社債の負債契約の他、銀行ローン負債契約について具体的な負債契約内容を調査し、データベースを構築した上で、国内の負債契約設定傾向を把握する。(2)では、(1)で構築したデータベースを用い、負債契約の設定プロセスを明らかにするために計量経済学的手法による実証分析を行う。(3)では、(1)のデータベースを用い、(2)で得られた結果を踏まえ、負債契約と利益調整との関係を探る実証分析を行う。最後に、上記(1)から(3)で得られた研究結果を論文としてまとめ公表する。 平成24年度の実施計画としては当初予定として(1)を挙げていたが、1年間の研究を経て、(1)は概ね終了することができた。調査の結果、銀行ローンに係る負債契約については、多年度に渡り、その設定傾向を詳細に把握することができた。 また当初、平成25年度に予定していた(2)にも平成24年度中に着手することができた。特に、負債契約において会計情報がどのように利用されているかについては、社債に係る負債契約を分析対象とし、会計情報(特に財務諸表上の繰延税金資産・負債)が金利に及ぼす影響を分析した。 現在は、(1)で構築したデータベースを利用し、会計情報が銀行ローン契約にどのように利用されているのかを計量経済学的手法により検証している。 ただし、(3)については未着手の状態である為、平成25年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、企業と債権者との間で結ばれる契約(以下、負債契約)において、会計数値の表す情報がどのように利用されているのかを実証究により明らかにすることである。具体的には、(1)負債契約において会計数値がどの程度利用されているのか、(2)債権者はどのように負債契約を工夫して設定しているか、(3)負債契約における会計情報の利用は、経営者に利益を調整する動機を与えるか否か、この3点に焦点を当てる。 研究期間は2年間 (平成24年度および平成25年度) を予定しており、この3つの研究課題は以下の3つの手順に基づいて進める。すなわち、(1)資料収集およびデータベースの構築、(2)負債契約の設定プロセスに関する実証分析、(3)負債契約と利益調整に関する実証分析である。 このうち、(1)については概ね終了しており、社債に係る負債契約に比べ、銀行ローンに係る負債契約の方が、より会計情報を利用して設定されることがわかった。 また、現在までに(2)についても一部着手しており、会計情報が負債契約に及ぼす影響を分析している。 一方、(3)については未着手の状態である。(3)については従来、負債契約が会計数値を利用することから、負債契約に規定された制約条項(これを財務制限条項という。)に抵触しそうになった企業ほど、条項対象の会計数値を改善するために利益調整を行うと考えられてきた。この仮説は実証会計学の分野で「負債仮説」と呼ばれ、周知の仮説となっている。 しかしながら、これまでの本研究の調査・研究により、負債契約の設定プロセスを踏まえれば、経営者が利益調整の動機を持たないケースもあり得ることがわかってきた。したがって、本研究では今後、米国の先行研究を参考に、負債契約が経営者の利益調整の動機に影響を与えるケースを特定し、どのような場合に負債仮説が成り立つのかを考察し、検証を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(2 results)