2012 Fiscal Year Research-status Report
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24730398
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
川島 健司 法政大学, 経営学部, 准教授 (80406652)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 財務報告 / グラフ |
Research Abstract |
本年度は、海外において進展している財務報告のグラフに関する研究について、海外の先行研究を踏まえて日本企業の実態について基礎的な調査を行った。具体的には、第1に財務報告におけるグラフの利用実態を記述し、第2に財務報告利用者に誤解を与え得るグラフがどの程度存在するかについて分析を行った。 第1については、日本企業が作成するアニュアルレポートにおけるグラフを対象に、「グラフの種類」(棒グラフ、線グラフ等)、「グラフで表現される項目」(売上高、当期純利益、1株当たり当期純利益、1株当たり配当金等)、「時系列グラフで表現される期間の長さ」等について実態調査を行った。調査の対象にしたのは、日本企業が作成するアニュアルレポートにおける「財務ハイライト」の部分に含まれるグラフである。財務ハイライトに着目した理由は、第1に財務ハイライトは通常、アニュアルレポートの最初の数ページ目に記載されていることから企業にとって重要性が高いグラフであると考えられること、第2にそれがトップページに記載されているため、多くの読者が目にしていると考えられることによる。 第2については、欧米企業にみられる歪曲操作の証拠は得られず、日本企業は海外に比べて忠実にグラフを作成していることを確認した。ただし、データ領域の縦横比を操作している可能性、およびデータ領域の縦横比が読み手の知覚に影響を与えている可能性があり、この検証は次年度の課題とする。また、財務報告利用者に誤解を与え得るグラフについて、財務報告の読み手がそれをどのように認識しているかについて分析したところ、財務報告の読み手はグラフの元となる数値を読んでいる可能性が示された。 以上は、2012年9月に行われた日本会計研究学会・第71回大会の自由論題報告において「財務報告におけるグラフの利用と歪曲に関する実態分析」と題して報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本企業が財務報告を行う際にグラフがどのように利用されているかについて、アニュアル・レポートに掲載されたグラフを対象にその実態を分析し、これを日本会計研究学会の年次大会において報告したことによる。ただし、当該報告については論文として未公表であり、当初の計画を上回るものではない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度の調査と分析を踏まえて、グラフの読み手に与える視覚効果に関する分析を行う予定である。主な内容は、グラフの歪曲性が証券市場の価格形成や当該企業の資本コストにどのような影響を与えているかを実証的に解明することである。分析は、主要な先行研究であるMuino and Trombetta (2009) にしたがって行うが、本研究の独自性を高めるために、以下の点を新たに考慮する予定である。 第1に、アニュアルレポートに含まれるグラフのみならず、他の媒体に含まれるグラフをも分析対象に含めることである。先行研究ではアニュアルレポートにおけるグラフのみを分析している。しかし、財務報告実務では、決算説明会資料や事業報告書といった他の媒体の他、ホームページ上の財務ハイライトにもグラフが活用されている。 第2に、本研究ではアニュアルレポートのグラフが、どのような経緯で作成されるかについても、当事者へのインタビュー等を通じて理解を深める。そのグラフの作成については財務報告資料の作成を手掛ける支援企業も関わっている。グラフが作成されるプロセスを定性的に分析することで、グラフの性質や、グラフを利用する際の企業の動機に関する理解をより深め、読み手に対する視覚効果の分析に解釈にフィードバックさせる(本研究では、グラフの読み手の視覚効果は、作り手が置かれた状況やグラフを作成する動機が影響しているのではないかと考えている)上記の他に、グラフの読み手へ与える視覚効果に関する実験的研究の実施も視野に入れる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究がとくに進展しているヨーロッパにおける研究動向を調査するため、ヨーロッパ会計学会への参加を予定している。年次大会ではグラフの利用を含めた日本企業の財務報告実務について、グラフ研究者と情報共有および意見交換を行う予定である。これにあたり、当該学会への参加にかかる経費に研究費を充当する予定である。また、当該学会において日本企業を対象としたグラフの利用実態について海外に研究成果を発信するために、英文校正費に充当する予定である。 日本企業の財務報告実務を調査するために、経理担当者へのヒアリングを予定している。このための交通費に研究費を充当する予定がある。また、企業ホームページからグラフを出力するために、プリンタのトナーおよび印刷用紙を購入する予定であり、これらに研究費を充当する予定である。
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