2013 Fiscal Year Research-status Report
津波被災地における地域社会の復興と被災者の生活再建のあり方をめぐる社会学的研究
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24730409
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
定池 祐季 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40587424)
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Keywords | 災害復興 / 生活再建 / 津波災害 / 災害伝承 / 災害文化 / 奥尻島 |
Research Abstract |
H25年度は研究計画に基づき、①災害前後の社会的環境の変化、災害家庭の整理、②ライフヒストリーの収集による、被災者の生活再建過程の整理を中心に実施した。①については、過去の新聞記事、奥尻町広報紙、北海道南西沖地震に関わる各種記録集や報告書から、奥尻島の復興に関わる出来事に関わる情報を収集し、被災からの20年の変遷をたどるための出来事一覧を作成した。次に①の情報を踏まえて、②ライフヒストリーの収集を行った。ライフヒストリーの収集は、奥尻島内の女性を主な対象として行い、女性達の喪失と再建のプロセスについて聞き取り調査を行った。また、小学生~中学生の時に災害を経験した若年層にも聞き取り調査を行い、ライフヒストリーを収集と同時に、復興特需後の奥尻町の経済活動について知見を得た。さらに奧尻町内において、過去の災害がどのように位置づけられ、伝承されているのかを明らかにするため、北海道南西沖地震から20年を記念して行われた各種行事と防災教育実施時に参与観察と聞き取り調査を実施した。この点については、これまでの調査結果と合わせて、追悼行事と防災教育からうかがえる北海道南西沖地震に関する災害伝承の変遷について、日本災害復興学会にて学会発表を行った。 加えて、現在の津波被災地が直面する課題や復興プロセスとの比較を行うため、東北地方の津波被災地でも現地調査を行い、聞き取り調査、資料調査を実施し、奥尻町の被災後3年間と東日本大震災の津波被災地の3年間の歩みの相違点について知見を得た。 H25年度の調査の成果については、日本災害復興学会での学会発表に加え、防災担当者向け研修や一般市民向けの講演、東北津波被災地における奥尻島の復興プロセスに関する情報提供という形で社会への発信を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は前年度に続いて、資料調査と聞き取り調査を重点的に行った。資料調査は概ね当初の予定通りに進めることができた。奥尻町の広報紙の過去号、新聞記事、各種資料から奥尻町の復興プロセスに関わる年表を作成した。そのことにより、復興事業、追悼行事、防災の取り組みなどを時系列で整理することができた。 一方、聞き取り調査については、インフォーマントの心情にこれまで以上に配慮する必要に迫られた。その理由として、次の2点があげられる。まず、2013年が北海道南西沖地震20年目という節目の年であることから取材や調査依頼が殺到し、それらの対応に苦慮するキーパーソンが多数に上ったこと。次に、それらの取材等の対応の結果、報道番組や雑誌・新聞等の記事や研究者の発表の中で、奥尻町の復興が失敗例として強調されることによって、奥尻町の人々の中に自虐的な語りが増えている状況が見られたことにある。春から夏にかけてそのような傾向が顕著になったため、聞き取り調査は、取材などが落ち着いた秋に実施するなど調査時期・内容をやや変更した。その結果として、報道などで描かれる奥尻町の復興像と住民の実感の違いなどについても伺うことができた。 また、平成25年度に奥尻町内でのアンケート調査を実施する予定であったが、前述のように北海道南西沖地震から20年という節目のため、複数の調査が実施されたことによる、調査公害が懸念される状況になった。そのため、奥尻島の方々との間にこれまで形成されてきた信頼関係と、今後の関係性も考慮し、調査時期を変更することとした。そこで、平成25年度については既存の調査内容を考慮し、資料調査と聞き取り調査の結果の整理に務めた。そして、質問紙調査を平成26年度に実施するという予定に切り替え、その準備を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度は、研究計画に基づき、次の2点に重点的に取り組む。 ①アンケート調査による被災地域社会の生活再建過程の整理 ②津波被災地における長期的な復興のあり方、被災地域社会の持続可能性の検討 ①については、現在調整中であるが、可能であれば奥尻町全世帯を対象に質問紙調査を行う予定である。その中で、被災した人々がどのようなきっかけで生活再建の実感を持つようになったのか/未だなっていないのかという点を明らかにする。そして、地区別、属性別といった、様々な区分の復興カレンダーを整理し、奥尻町の人々の復興過程の概要を明らかにする。また、必要に応じて資料調査を行い、奥尻町の復興プロセスの補足を行う。 ②については、①の結果を含めたこれまでの成果を元に、総合的な考察を行う。資料調査、聞き取り調査、質問紙調査の結果から、北海道南西沖地震から21年を迎える奥尻町の行政、地域社会、学校、家族・世帯、個人の生活再建状況、復興状況、復興観について多面的に検証する。その上で、津波被災地における長期的な復興のあり方、被災地域社会の持続可能性について、総合的な考察をし、理論的検討を進める。なお、考察の過程で補足調査が必要であると判断される場合には、適宜実施しながら、奥尻島の復興過程を多面的に明らかにしていく。 なお、これら調査研究の遂行にあたっては、研究協力者の協力と、学内外の研究者との情報交換などを元に、必要に応じて手法等の検討と改善を試みる所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額として計上されている20,441円については、平成26年3月に物品等を購入済みであるが、北海道大学の会計システムの使用上、4月以降の支払いとなっているため。 上記の理由によりすでに使用済みであり、使用予定はない。
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