2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730413
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
朝岡 誠 東京大学, 社会科学研究所, 研究員 (70583839)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会学 / 評判 / シミュレーション / ゲーム理論 |
Research Abstract |
流動性が高い「開かれた社会」となった現代社会において、コミットメントによる秩序形成メカニズムに代わる新しい秩序形成が必要である。そのため評判の「呼び込み機能」を基盤とした秩序形成に注目が集まっている。本研究では他者に自分の経験を評判として流すメカニズムに着目し、エージェント・ベースト・モデルによる理論研究を行い、アンケート調査に経験的研究にてその知見の妥当性を検討し、「開かれた社会」のための秩序メカニズムが成立する条件を明らかにする。 先行研究は開放的であり、なおかつ評判情報が完全に行きわたるネットワークを想定し、各エージェントが評判情報をどのように処理すると間接互恵的な関係が成立するのかを明らかにすることを目的としていたが、本研究ではネットワーク構造に着目し、評判情報が社会的ネットワークを通じて近隣のエージェントの間でのみ流通する場合、各エージェントはどのような条件において(i)評判を伝達させるのか(ii)特定の相手との関係だけにとどまらず、開放的なネットワークを構築するのかを明らかにするシミュレーションモデルを構築した。この結果「閉じた社会」が「開かれた社会」に移行する条件として、①特定の相手とのみ付き合うことで失う機会費用が大きく、②ネットワーク形成のためのコストが小さいほど「開かれた社会」になるが、ワンショットで騙し合う非協力状況に陥りやすい事が分かった。 当初はアンケート調査のプレ調査に移行する予定であったが、評判とネットワークの開放性の関連を詳細に考察するため、福島県只見町の複数の集落にて聞き取り調査を行い、部外者を積極的に受け入れている集落と部外者を排除する集落で評判の効果や集落内のネットワークがどのように違うのかを調査した。そして2013年3月の数理社会学会でその成果を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初はシミュレーションモデルの分析で得られた知見が経験的に妥当であるかどうかを検証するためにネットによるアンケート調査を行う予定であったが、シミュレーションで得られた知見をアンケート調査で尋ねるのは難しいと考え、フィールドワーク調査から評判とネットワークの開放性の関連を検証する方向に切り替えた。そのために計画がやや遅れている。計画変更の理由は以下の3点が挙げられる。 ①調査票プリテストを行ったところ、プリテスト参加者から質問内容が現実的ではなく、イメージがわきにくいと指摘され、十分な回答結果が得られなかった。したがってネット調査で行なっても十分な成果があがらないと考えられる。 ②シミュレーションモデルを用いて現実の抽象化を行うことができたが、このモデルを精緻化するためには参与観察を通じて「開かれた社会」と評判の関連を調査し、そこから得られた知見をヒントにモデルを改良したほうが有意義だと考えられる ③現在フィールドワークを行なっている福島県只見町は複数の集落があり、どの集落も限界集落であるため機会費用が著しく高いのにも関わらず集落ごとに部外者への対応がまちまちである。積極的に部外者を受け入れ「開かれた社会」になっている集落もあれば、部外者を排除し「閉じた社会」であり続ける集落もある。この集落間における人々の意識、行動の比較を通じ、流れる評判の質の違いを明らかにし、それをシミュレーションモデルを用いて抽象化することで「閉じた社会」から「開かれた社会」への移行メカニズムを明らかにすることができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
「閉じた社会」と「開かれた社会」の評判効果の違いを明らかにするために、福島県只見町にてフィールド調査を行う。昨年は2回訪れ、部外者の山菜利用ルールを策定した方に聞き取り調査を実施し、集落の状況を伺った。今年度は3回@4日のフィールド調査を予定している。森林管理ルールがどれだけ守られているのかという具体的な話を通じて(a)集落の中でどのような評判が流通しているのか(集落住民の良評/悪評・部外者の良評/悪評)(b)集落内でどの人が評判を流すのか(その個人の属性/ネットワーク上の位置・良評/悪評)の2点について部外者を積極的に受け入れる集落と排他的な集落で異なるのかどうかを明らかにする。このフィールド調査で得られた知見をもとにシミュレーションモデルを修正し、モデルの精緻化を図る。ここから評判を用いて「閉じた社会」から「開かれた社会」に移行するために必要な条件を明らかにし、そのメカニズムを理論化する。 この研究で得られた知見を日本社会学会、日本社会心理学会、数理社会学会などの国内学会で報告する。またESSA(The European Social Simulation Association)またはASA(AmericanSociological Association)などの国際学会にて報告することを予定している。加えて国内外の雑誌論文(『社会学評論』、『理論と方法』、『社会心理学研究』、Rationality and Society など)への投稿を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度行ったシミュレーション結果を再分析するために統計分析ソフトstata/SE ver12を購入する。そして 「閉じた社会」と「開かれた社会」の評判効果の違いを明らかにするために、福島県只見町にてフィールド調査を行う。昨年度は2回ほど訪問したが、今年度は5月、7月、10月に4日ほど訪問する予定である。 なお、国内での学会発表を2回、海外での学会発表(American Sociological Associationを想定)を行うための旅費を経費として計上した。
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