2012 Fiscal Year Research-status Report
「記憶の場」の観光地化とポピュラー文化が生み出す歴史意識の変容に関する実証的研究
Project/Area Number |
24730447
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Jin-ai University |
Principal Investigator |
山中 千恵 仁愛大学, 人間学部, 准教授 (90397779)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ポピュラー文化 / ナショナリズム / 記憶 / 観光 / メディア / グローバル化 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ドラマやアニメなどのポピュラー・メディア作品の越境的な受容とそれが引き起こす観光行動が、戦争や災害等「負の記憶」を留める場所(「記憶の場」)の観光開発や再イメージ化といかにかかわっているのかを調査し、グローバル化時代の集合的記憶の重層的な構築過程を、社会学的視点から明らかにすることにある。近年「戦争の記憶とメディア」、「負の遺産の利用」をめぐる問題が関心を集めているが、ポピュラー文化的な側面を分析する研究は多くない。本研究では、メディア作品を観光資源とみなす「コンテンツツーリズム」論を介することで両者を接合、趣味実践を通じた意味構築が、観光開発と苦難の記憶をいかに結びつけ(る/ない)のかという文化政治を考える。 本年度は、主な関連文献を収集、整理するとともに、各種研究会に参加、これまでに実施していた調査との関連からこれらをまとめた。その成果の一部は第85回日本社会学会大会(於札幌学院大学)と、石田佐恵子・村田麻里子との共編著『ポピュラー文化ミュージアム』ミネルバ書房として報告した。ここでは、ポピュラー文化を文化資源とみなして設立されるミュージアム(町並みミュージアムを含む)が、いかに地域活性化の起爆剤として位置づけられているのか、そしてそれがどのような価値をポピュラー文化に付与し、活用しようとしているのか(あるいはできていないのか)について考察、報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、「負の記憶」以外の場所や対象を含めたポピュラー文化全般の観光利用の状況について、議論・整理を行うことで、充実した成果を得ることができた。主に日本と韓国、台湾の一部地域の状況を整理していくなかで、ポピュラー文化を利用した観光開発や場所の再イメージ化が、ポピュラー文化の「人気」や「経済効果」への過大評価とコンテンツを利用してさえいればよい、とする軽視が錯綜する中で起こっていることが見えてきた。こうした点を、文献などから推測し、いくつかの仮説を得ることができた点では、今後の方向を絞る上でも、大きな成果があったといえる。 さらに、調査成果の還元という意味でも初年度から精力的に行うことができた。学会報告などをへて、各関連の専門家との議論が行え、ネットワークができたことは大きい。また、書籍出版を通して、研究成果の発信も進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、2012年度にえた知見をもとに、本格的な海外調査を実施する。韓国・台湾において映画やドラマ、アニメ、マンガ作品の舞台となり「コンテンツツーリズム」の対象となっている植民地建築物や都市を対象に、「負の記憶」を表象する場所を観光地化しようとする地域・行政・政策の実態調査および、そこを訪れる人々が行う意味創出に関する質的調査を行う予定である。 観光政策の実態と地域住民の意識のあり方を把握するとともに、分析対象となる観光地を訪れる人々が植民地建造物をはじめとする「負の遺産」をいかに「まなざして」いるのかを明らかにするためのインタビュー調査を行うことで、「負の記憶」の位置づけを巡って、いかなる歴史意識やナショナリズムが働いているのかを明らかにしていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、主に韓国を中心とした現地調査を行う予定であり、そこに重点的に予算を使用予定である。具体的には、ソウル市内における「負の記憶」とポピュラー文化が交錯する場と、観光開発をすすめる地方都市における調査を実施し、各地の大学との連携をとりながらこれを進める予定であるため、旅費・滞在費及び現地専門家アドバイス謝礼、通訳代などに研究費を用いる。 前年度の成果のうち、まとめられていない部分をもとにしたさらなる論文の学会への投稿費や成果物の郵送費などにも研究費を使用する予定である。インタビュー調査の対象としては、地域住民や制作担当者、観光客などに広く行う予定であり、加えて、分析に必要な調査対象地の地図や図面、地域情報(その土地の歴史や都市計画の経緯など)の収集・複写も必要である。インタビュー成果のテープ起こし、資料の整理等に予算を割くと同時に、成果物作成に向けて研究会などを充実させる。可能であれば、講師として外部から専門家を招いた小講演会なども開催したいと考えている。
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