2013 Fiscal Year Research-status Report
「記憶の場」の観光地化とポピュラー文化が生み出す歴史意識の変容に関する実証的研究
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24730447
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Research Institution | Jin-ai University |
Principal Investigator |
山中 千恵 仁愛大学, 人間学部, 准教授 (90397779)
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Keywords | ポピュラー文化 / ナショナリズム / 記憶 / 観光 / メディア / グローバル化 / 東アジア |
Research Abstract |
本研究の目的は、ドラマやアニメなどのポピュラー・メディア作品の越境的な受容とそれが引き起こす観光行動が、戦争や災害等「負の記憶」を留める場所(「記憶の場」)の観光開発や再イメージ化といかにかかわっているのかを調査し、グローバル化時代の集合的記憶の重層的な構築過程を、社会学的視点から明らかにすることにある。近年「戦争の記憶とメディア」、「負の遺産の利用」をめぐる問題が関心を集めているが、ポピュラー文化的な側面を分析する研究は多くない。本研究では、メディア作品を観光資源とみなす「コンテンツツーリズム」論を介することで両者を接合、趣味実践を通じた意味構築が、観光開発と苦難の記憶をいかに結びつけ(る/ない)のかという文化政治を考える。 本年度は、主な関連文献を収集、整理するとともに、韓国ソウルおよび地方都市(群山や済州)におけるパイロット調査を実施した。また、各種研究会に参加、実施した調査およびこれまでの調査との関連づけなどを行い、これらをまとめる準備をした。成果の一部は伊藤遊、谷川竜一、村田麻里子との共著『マンガミュージアムへ行こう』岩波書店として報告した。ここでは、ポピュラー文化を文化資源とみなして設立されるミュージアム(町並みミュージアムを含む)の中でも、マンガを対象とするミュージアムをいかに分析しうるのかについて考察、報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、「負の記憶」以外の場所や対象を含めたポピュラー文化全般の観光利用の状況について、議論・整理およびパイロット調査を行うことで、充実した成果を得ることができた。主に日本と韓国、台湾の一部地域の状況を整理していくなかで、ポピュラー文化を利用した観光開発や場所の再イメージ化が、文脈化されていたその場所の記憶を分断し、あらたな歴史ではなく、非―歴史的なイメージ化を伴う面もあるが、個人が参与する生活史としての歴史を再構成する可能性を持っていることがわかった。えられた知見を従来の記憶の社会学の議論といかに接続していくかを検討していく必要があるが、今後の方向性を占ううえで、大きな成果・達成点となった。 さらに、調査成果の還元という意味でも初年度にひき続き行うことができた。各地関連の専門家と研究会や意見交換の場を積極的に設定したことで、活発な議論が行え、またネットワークも充実した。また、書籍出版を通して、研究成果の発信も進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、主に台湾を中心とした現地調査を行う予定であり、そこに重点的に予算を使用予定である。具体的には、台南周辺部における「負の記憶」とポピュラー文化が交錯する場と、観光開発をすすめる人々の調査を実施する。各地の大学との連携をとりながらこれを進める予定であるため、旅費・滞在費及びデータ整理アルバイト、現地専門家アドバイス謝礼、通訳代などに研究費を用いる。 また、これまでの成果のうち、まとめられていない調査部分を論文にまとめ、学会への投稿費や成果物の郵送費などにも研究費を使用する予定である。インタビュー調査の対象としては、地域住民や制作担当者、観光客などに広く行う予定であり、加えて、分析に必要な調査対象地の地図や図面、地域情報(その土地の歴史や都市計画の経緯など)の収集・複写も必要である。インタビュー成果のテープ起こし、資料の整理等に予算を割くと同時に、成果物作成に向けて研究会などを充実させる。可能であれば、講師として外部から専門家を招いた小講演会なども開催したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画していた調査を、予定の調査期間及び規模で実施するには科研費減額による影響が大きかったため、パイロット調査を実施し、経費内での調査実施を再計画したことが理由として挙げられる。 次年度は、主に台湾を中心とした現地調査を行う予定であり、そこに重点的に予算を使用予定である。具体的には、台南周辺部における「負の記憶」とポピュラー文化が交錯する場と、観光開発をすすめる人々の調査を実施する。各地の大学との連携をとりながらこれを進める予定であるため、旅費・滞在費及びデータ整理アルバイト、現地専門家アドバイス謝礼、通訳代などに研究費を用いる。 また、これまでの成果のうち、まとめられていない調査部分を論文にまとめ、学会への投稿費や成果物の郵送費などにも研究費を使用する予定である。
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