2012 Fiscal Year Research-status Report
「障害の社会モデル」再考―容貌のインペアメントのある人々の観点から
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24730451
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
西倉 実季 同志社大学, 文化情報学部, 助教 (20573611)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 容貌のインペアメント / 障害の社会モデル |
Research Abstract |
本研究は、インタビュー調査により、容貌のインペアメントのある人々がなぜ「障害(者)」と見なされることに対して抵抗感を抱くのか、その所在を明らかにすることを目指している。彼/彼女らの抵抗感をもとに、「障害の社会モデル」が内包する限界や問題点を検討し、インペアメントの多様性を包摂しうる社会モデルを提起することが最終課題である。 平成24年度の前半は、従来は「障害」ではなかったものが「障害」と見なされるようになった事例として、発達障害とトランスジェンダーに関する文献研究を進めた。まず、発達障害の当事者が「障害」の範囲拡大によって障害者制度の対象に含まれることをどのように捉えているかを検討した。その結果、「障害」は「できないこと」を免責する機能を持つため、「障害者」と見なされることは発達障害者にとって一定のメリットがあるものの、いったん「障害者」として周囲に認識されると、すべての行為を「障害」との関連で解釈されてしまうという問題が確認できた。また、「性同一性障害」概念の普及と「性同一性障害者特例法」によって社会的理解が促進され、当事者にとって性別の変更が容易になった反面、医療への依存・従属が強化されたという問題点も明らかになった。 平成24年度の後半は、上記の文献研究の成果、とくに「障害」と見なされることのメリットに関する知見をふまえて、容貌のインペアメントのある人々における「障害(者)」への抵抗感を把握するための調査項目を考案した。それにもとづいて8名を対象にインタビュー調査を実施した結果、「障害」と見なされることのメリット――発達障害者における「できないこと」の免責、トランスジェンダーにおける社会的理解の促進や医療へのアクセスに相当するもの――が、容貌のインペアメントのある人々においては語られないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度の前半に予定していた文献研究から一定の成果を得て、後半にインタビュー調査を実施できたことから、おおむね順調に進展していると判断した。ただし、計画していた軽度身体障害および慢性疾患に関する文献調査は、研究計画よりも遅れている。これは、当初は予定していなかったトランスジェンダーに関する文献研究に着手して進めていくうちに、機能制約を伴うわけではないが「障害」と見なされるという、容貌のインペアメントとの共通点を認識したことによる。この作業から本研究課題にとって有効な知見が得られるものと判断し、トランスジェンダーに関する文献研究を優先させた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度に予定通りに進展させることができなかった軽度身体障害および慢性疾患に関する文献調査をおこなう。おもな対象文献としては、秋風千恵『軽度障害の社会学―「異化&統合」をめざして』(ハーベスト社、2013年)、田垣正晋編著『障害・病いと「ふつう」のはざまで―軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る』(明石書店、2006年)、浮ケ谷幸代『病気だけど病気ではない―糖尿病とともに生きる生活世界』(誠信書房、2004年)が挙げられる。 文献調査から得られた知見の妥当性を判断し、そうした知見をもとに本研究が対象とする容貌のインペアメントのある人々の経験を適切に把握していくために、障害学をテーマにした研究会に定期的に参加し、研究発表をおこなう。そこで得られたコメントをもとに、研究成果をより確かなものとするよう努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前半は、残された文献研究および前年度のインタビュー調査で得られたデータの整理と分析をおこなう。また、分析の過程で新たに検討するべき論点が見つかった場合、追加でインタビュー調査を実施する(5名程度)。この期間中は、データの収集と分析を循環的に行なえるという質的調査の強みを活かして調査研究を進めていく。この計画に従って、障害の社会モデルおよび軽度障害関連の図書購入費およびインタビュー対象者への謝礼を計上している。 後半は、インタビュー調査で明らかになった容貌のインペアメントのある人々における「障害」への抵抗感をふまえて、障害の社会モデルを再考する。1970年代の重度身体障害者運動に起源を持つ社会モデルは、運動の戦略としてディスアビリティに焦点を絞った結果、インペアメントを軽視し過ぎていると批判されるようになった。1990年代以降のインペアメントを障害研究の対象に据えようという動向は、こうした批判の中から誕生したものであるが、そこで遡上に載せられているのは機能制約を伴うインペアメントに限られている。つまり、社会モデルの認識は次第にインペアメントに向かうようになってはいるものの、機能制約を伴わないインペアメント――その典型例とも言えるのが容貌のインペアメント――はいまだ看過されているのである。機能制約を伴うインペアメントにしか注目しないことで社会モデルはどのような問題を孕むのか、社会モデルの認識をいかにして多様なインペアメントに開いておくことが可能かを検討する。
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Research Products
(2 results)