2012 Fiscal Year Research-status Report
特例子会社制度の活用による障害者雇用拡大のための方策;合理的配慮に焦点を当てて
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24730473
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
山田 雅穂 中央大学, 総合政策学部, 助教 (30548160)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 障害者雇用 / 特例子会社 / 障害者雇用率制度 / 障害への配慮 / 合理的配慮 / 国連障害者権利条約 / 経営倫理 / CSR |
Research Abstract |
平成24年度の研究実績は「研究実施計画」の第1段階全て(調査表作成のための文献収集・事例研究と予備調査)と、第2段階(特例子会社と親会社への調査票調査の実施と結果の分析)の調査票調査の実施までを達成した。第1段階の文献収集と分析では、障害者雇用に関する文献や調査は海外でも非常に少ないことがわかり、この点からも本研究の意義と重要性は大きいと考える。 次に経営側からの視点を調査項目に生かすため、予備調査としてインタビュー調査を実施した。これまで筆者の研究にご協力いただいてきた特例子会社2社の2名(代表取締役社長を含む)と、筆者が所属する日本経営倫理学会での活動を通じてご承諾いただいた2名(東京商工会議所産業政策第二部主任調査役の米村達郎氏、法定雇用率以上の実雇用率を達成している大企業の方1名)にご協力いただき、特例子会社と親会社の関係に関する実態、広く企業全体の障害者雇用に関する意識・見解、設定すべき質問項目についてお話を伺った。その結果、コンプライアンス(法令遵守)として障害者雇用に取り組まねばならないという意識は共通するが、本研究で調査予定である具体的な障害への配慮、自社の理念や戦略への組み込みについては企業によって差が大きく、本調査の実施意義を確認できた。 以上の結果を加味し、研究計画に記載した視点を入れて「障害への配慮の具体内容とその実施状況に関する両社自身の意識」「経営状況」「障害への配慮の実施が可能な要因と、それらが子会社および親会社の自助努力のみで可能なのか、政策・制度による支援が必要なのか」「障害者雇用の決定に関する両社の連携の実態」「今後の両社の在り方に関する両社自身の見解」等の項目を設定した。2013年1月末に全国の特例子会社と親会社合計397社(1社住所不明)に調査票を送付し、回答率は親会社8.6%(30社)、特例子会社33.2%(116社)であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、先述のように、交付申請書に記載した「研究計画」の通り平成24年度は第1段階と第2段階の調査実施まで達成したためである。第2に、平成24年度の上記の研究を通して、本調査の実施に意義があることを文献研究による学術的視点だけでなく、障害者雇用に関わる特例子会社および広く企業一般に携わる現場の方々へのインタビューからも確認できたからである。 本研究の目的は「障害者雇用の質を確保する合理的配慮を焦点として、障害者雇用のノウハウを蓄積してきた特例子会社と親会社を調査し、特例子会社の活用による障害者雇用の拡大のための方策を提示すること」である。平成24年度はその調査を行うための準備として、文献収集による先行研究のレビューと、より詳しい実態把握を可能とするため、予備調査のインタビュー調査を行って特例子会社を含めた現場の方々の視点を生かすこと、それらを踏まえて調査票を作成し調査を実施する計画であった。この点から自己評価を行うと、第1の点については、調査結果の分析にまで着手することはできなかったが、それ以外の計画は全て達成できた。特に、前述の通り日本国内と海外の両方において障害者雇用に関する先行研究そのものが非常に少ないこと、特に本研究が目的とする企業の実態調査を踏まえた上での障害者雇用政策研究は、現段階では発見できていないこと、さらに日本が最初に制度化した特例子会社と親会社の両社への調査は依然として存在していないことからも、本研究の意義と果たせる役割は非常に大きいといえる。 さらに第2の点について、本研究は企業、障害者本人や就労支援専門家等の現場に、質を高めた上での雇用促進の方策の提示と、政策・制度として取り組むべき要素の解明を目的としている。つまり現場に貢献することを目的としているため、本調査の意義と必要性を学術的視点だけでなく企業の視点からも確認できたことは大きいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は前年度調査の結果分析を行った後、「研究計画」に記載した第3・第4段階の研究を行う。第3段階では調査票調査を補完するため、調査にご協力いただいた特例子会社と親会社合計10社程度、合計15名程度にインタビュー調査を行う。調査項目としては、まず調査票調査の項目内容をさらに深めたものをお伺いする予定である。さらに、現場担当者として現行の障害者雇用政策や助成金制度そのものについて、また国連障害者権利条約や障害者総合支援法を踏まえた上での今後の在り方についてである。 第4段階では全ての調査結果を踏まえた上で、特例子会社制度の活用の具体策と合理的配慮による雇用の質の確保の方策について、企業の自助努力で可能な範囲と政策・制度の改善や新たな創設が必要な方策とに峻別し、政策提言を行う。また特例子会社や親会社の雇用のノウハウ等を通常の企業に応用するために必要な要素も明らかにする。 次に調査票の結果分析の視点は、交付申請所に記載した通り次の3点である。第1に各企業の障害への配慮の内容や障害者雇用に関する決定等が、特例子会社単独で可能となっているか、子会社と親会社の連携によるのか、親会社の支援を受けることで可能となっているかである。第2に子会社と親会社が①障害への配慮を行う特例子会社の制度上の目的と②企業体としての経営の安定・継続の両者を両立できているかという点である。第3にこれらの分析が特例子会社の従業員の障害の特性や業務内容等によって特徴の違いや相関関係を有しているのかを分析する。 研究の推進の方策としては、前年度の研究にご協力いただいた企業の現場の方々の他、今後行うインタビュー調査にご協力いただく子会社と親会社の方々にも、結果分析と方策の提言を行う際に現場から見て実際に役に立つものかどうかご意見を頂き、それを生かしながら最終的に提言したい。またその過程で引き続き文献研究も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費に残高が生じた理由は、次の2点である。第1に、先述のように国内外を問わず障害者雇用に関する調査研究や文献が予想以上に少なかったため、文献収集にかかる費用が当初の計画よりも若干少なかったためである。第2に、調査結果のデータ入力にかかる費用について、特例子会社と親会社の回答率がそれぞれ20%以上であると想定し、最大費用の見積もりを行った。しかし、実際は先述のように親会社の回答率が8%と、特例子会社の30%に比べて低かったため、データ入力にかかる費用が当初よりも少なかったためである。第2の点は、特に親会社と子会社の両社に調査を行った前例がなく、筆者の研究が初めてであったため、実施してみないとわからない側面が非常に強かったことを述べておきたい。 平成25年度に使用する研究費と合わせた使用計画は、次の通りである。まず、調査結果の分析・報告のための費用である。これは、これから行うインタビュー調査のための旅費、インタビューのための機器(ICレコーダー等)購入、ご協力いただく特例子会社と親会社の方々への謝金、前年度に引き続きご協力いただく企業の方々や専門的知識の提供者への謝金を予定している。また本研究成果報告にかかる費用として、学会発表、そのための旅費、論文作成と投稿、そのための文献研究にかかる文献収集のための費用が主なものである。当初の研究計画の変更や遂行する上での課題は特にない。
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