2013 Fiscal Year Research-status Report
犯罪情報の発信に関する実証的検討―情報発信による犯罪抑止・不安低減に向けて―
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24730506
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
荒井 崇史 追手門学院大学, 心理学部, 講師 (50626885)
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Keywords | 情報発信 / 犯罪情報 / 防犯情報 / 計画的行動理論 / 防犯行動 / 犯罪不安 / 主観的規範 / 行動統制感 |
Research Abstract |
本年度の研究目的は,前年度実施した犯罪情報や防犯情報の情報発信の実態把握に基づいて,効果的な情報発信のあり方を探索することであった。昨年度までに実施した予備的調査や実務家に対する聞き取り調査の結果,警察などの公的機関が実施する情報発信については,発信者の経験や過去の事例に基づいた情報発信が主であり,必ずしもエビデンスに基づいた情報発信ではないことが示唆された。こうした現状把握の結果お踏まえて,情報発信のバックボーンとなる理論を見出すために,近年,環境配慮行動や健康行動の分野で注目を集める計画的行動理論の枠組みから犯罪情報及び防犯情報の発信を捉える試みを行った。 具体的には,防犯領域でも計画的行動理論が有用な行動理論になり得るのかどうかを検証するために,女子大学生500名程度を対象にした質問紙調査及び子どもを持つ母親700名程度を対象としたWeb調査を実施した。各対象者について得られたデータを分析したところ,いずれの対象者においても,行動に対してポジティブな態度を持っているだけでは必ずしも行動意図や行動は促進されず,むしろ主観的規範,行動統制感の一部である自己効力感を強く持つことで,行動意図や行動がもたらされる可能性が高いことが明らかとなった。 これらの結果に基づいて,従来の情報発信を分類してみると,基本的には行動に対する肯定的な態度を醸成することを目指したと思われる情報発信が主であり,主観的規範や行動統制感(自己効力感など)にアプローチした情報発信は少数であった。今年度の2つの研究を踏まえれば,態度にアプローチするだけではなく,主観的規範や行動統制感にアプローチするような情報発信こそが行動変容を促すのであり,今後はそうした情報発信を広めていく必要がある。こうした方法を採用することで,過分な不安を喚起することなく,対象者に行動を奨励することが可能となるのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は,前年度実施した犯罪情報や防犯情報の情報発信の実態把握に基づいて,効果的な情報発信のあり方を探索することであった。本年度は,当初の研究計画からはやや変更があったものの,犯罪被害のリスクが高い世代である女子大学生を対象とした質問紙調査,子どもに関する犯罪不安が最も高いと考えられる子どもを持つ母親を対象としたWeb調査を行い,計画的行動理論の観点から見た場合に,どのような情報発信が効果的かを明らかにできた。つまり,現存する情報発信のように主として当該行動に対するポジティブな態度を形成するための情報発信では不十分であり,主観的規範や行動統制感にアプローチするような情報発信が有用であることが示された。これらの点を明らかにできたことは,今年度の研究において得られた一つの成果である。 昨年度の研究では,やや進捗がやや遅れていたものの,当初の網羅性の高い発信情報の収集から(ボトムアップ型研究),理論ベースの情報発信のあり方の検討(トップダウン型研究)に変更したことが功を奏したものと思われる。ただし,完全に当初の計画を網羅できたわけではなく,一部検討中の課題も残されている。つまり,犯罪抑止に向けた情報発信については,残された課題であり,この点は次年度以降の検討課題である。なお,社会心理学における最新知見を含めて,犯罪抑止のための情報発信に資する先行研究のレビューを行った結果,意識的情報処理のほかに,自動的・無意識的な過程を含めて,情報発信の影響を探る必要があることが明らかにできた点も,今年度の研究成果である。課題は残されているものの,当初の計画を修正しつつ,新たな視点を得られたことから判断して,本年度の研究はおおむね順調に進んだと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については,これまでの研究では明らかにできていない,犯罪抑止のための情報発信のあり方について検討を行う予定である。このことに加えて,犯罪加害者の行動の根底にある情報処理のあり方を踏まえた検討が行えるよう,多少の変更を加えることとした。すなわち,当初の計画で指摘した合理的選択理論に基づけば,犯罪行為は,行為によって得られる利得と逮捕のリスクを比較してなされると想定される。しかし,この数年の間に大きく進展した社会心理学的な研究を踏まえると,我々人間の行動は,我々が思うほど意識によって制御されていない可能性が指摘される。つまり,自動的・無意識的に行動が誘発される場合もあり,そうであれば,意識に働きかける情報発信だけでは,必ずしも犯罪抑止につながらない可能性があるためである。犯罪情報の発信による犯罪抑止は,あくまでも意識に働きかける方策であり,自動的・無意識的行動までは,抑止できない可能性が高い。 こうした研究当初には明らかにされていなかった事実を踏まえて,次年度以降は研究計画を若干変更しつつ,我々の犯罪に類する行動(加害行為を直接的に測定することは困難なため,暴力などを題材とする)が自動的・無意識的な過程を経て生じ得るのかどうかについても検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該使用額が生じた理由としては,昨年度計画していた研究1(犯罪情報及び防犯情報の情報発信の実態把握)の実施状況がやや遅れていた点に一因があると考えらえる。 本年度の研究自体は,昨年度の遅れを取り戻し,おおむね順調に進展したと考えている。ただし,研究1でボトムアップ的な研究を実施することの時間的限界を考慮して,トップダウン式(理論ベース)の研究に変更したことにともなって,調査内容及び対象者,そして調査方法に若干の変更を行った。このことから,当初の予算からの差異が生じたものと考えられる。 次年度以降については,犯罪抑止に向けた情報発信を中心に研究を行う予定である。ただし,近年の研究の趨勢を踏まえると,意識的なレベルでの情報処理を考慮するだけでは必ずしも十分ではないことが明らかとなってきた。それを踏まえて,自動的・無意識的なレベルでの情報処理に関する実験的な研究を計画している。次年度の研究でも,研究の多少の変更が必要であることが予想され,当該の予算については,謝礼品や消耗費など,研究修正に必要な費用として使用する。また,上記の研究を実施するにあたっては,費用対効果及び研究の実現可能性などを考慮して,適宜,修正を行う予定である。
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