2013 Fiscal Year Research-status Report
論理と感情,功利と義務:道徳的判断の心理的基盤に関する実証研究
Project/Area Number |
24730507
|
Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
中村 國則 成城大学, 社会イノベーション学部, 准教授 (40572889)
|
Keywords | 道徳のジレンマ / 二重処理プロセス / 功利主義 / 義務論 |
Research Abstract |
“多数を救うための少数の犠牲の是非”を問う道徳のジレンマの問題では近年,答えの文脈依存性が注目を集めてきた.例えば“暴走するトロッコに轢き殺されそうな5人の作業員を助けるための1人の犠牲”の是非を考えるとする.ここで,“トロッコの進路を代えた先にいる作業員”の犠牲の是非を問うトロッコ問題では,多くの人は犠牲を是とみなすのに対し“歩道橋の上にいる,突き落とせば身体の重みによってトロッコの暴走を止めることが可能な男”の犠牲の是非を問う歩道橋問題では犠牲は非とされる.これらの結果から,トロッコ問題は結果の大きさを評価する功利主義者的な思考が,歩道橋問題では個人の生きる権利を重視する義務論的な思考が反映されると解釈され,判断基準の乖離への様々な説明が提案されてきた. このような背景のもと、本研究は道徳的判断における合理的思考プロセスの影響を詳細に分析することを目的として,(1)道徳のジレンマの計量的性質の検討,(2)道徳のジレンマの功利的な側面の分析等を行った。(1)に関してはこれまで先行研究で用いられてきた道徳のジレンマ課題を多変量解析で分析し,主として4つの潜在因子が存在することを確認したと同時に、それらの因子を合理的・感情的プロセスに対応付け、合理的思考プロセスの道徳的判断に対する影響を定量的に確認した。 (2)については様々な道徳のジレンマの中で言及されている犠牲者,及び生存人数を操作し,その操作の影響がどのように現れるのかを検討した。その結果,犠牲者数といったジレンマの功利的な側面の判断に対する影響を確認すると同時に,その影響が定説と異なった形であらわれることを確認した.すなわち,これまで合理的プロセスの影響が強いと考えられたトロッコのジレンマより,感情的プロセスの影響が強いと考えられていた歩道橋のジレンマの方が功利的側面の影響が強いことを示した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の二つの目的であった道徳のジレンマの計量的分析、および功利主義的側面の分析についてはおおむね目的を達成したと考えることが出来る。前者の成果については国際的学術誌に掲載され(Nakamura, 2013 in Thinking and Reasoning)、後者の研究成果も国際的学術誌に現在投稿中であり,好意的評価を得ている.功利主義的側面の検討はデータ収集・解析の点で分析中の部分を残しているが,その部分も解析を終了すれば一定の研究成果を見込めるものであり,全般的には順調な進行であったと評価できる.
|
Strategy for Future Research Activity |
道徳的判断の問題を他の思考・推論研究の問題と関連付けて検討することが必要であろう.たとえば代表者は現在,意図性判断と意図性判断・因果推論の問題について検討しているが,これらの問題と道徳的判断の問題は親和性が高く,関連付ければ大きな成果が期待できるであろう.実際代表者は次の科研費採択課題で主として意図性判断と道徳的判断の関連に関する分析を行う予定であり,そこでは人工的な状況の道徳のジレンマのみならず,裁判や社会問題といった現実にある問題を実験課題として用いる予定である.現在分析中の材料とあわせ、より発展的な研究成果を目指したい.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
データ収集・および解析の行程で時間がかかり,その部分に費やす予定の予算が未使用になった.具体的には収集について思うようなサンプルサイズの参加者が集まらず,その結果分析結果の推定も安定しなかった.また,分析の過程で行為者の意図性という新たな理論的課題も浮上し,当初の予定を変更して理論的検討を加える必要性が生じて実作業の遅れが生じた. 新たな研究データ収集・および解析のための諸費用として充てたい.データ収集については学生のみならず,web調査等を用いてより広範なサンプルからの収集を目的として調査会社への協力も考慮する.また研究成果を公表する国内・海外学会への参加費用としても見込みたい.
|
Research Products
(3 results)