2012 Fiscal Year Research-status Report
心理学データのための情報仮説の評価法およびソフトウェアの開発
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24730544
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
岡田 謙介 専修大学, 人間科学部, 准教授 (20583793)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 情報仮説 / 縦断データ / 階層データ / 潜在変数 / 心理統計学 |
Research Abstract |
情報仮説とは、研究者の持っている仮説を直接的に表現する、パラメータについての等号や不等号制約によって表現される仮説のことである。古典的な仮説検定においては、パラメータに関する「差が0である」といったような極端な仮説である帰無仮説と、パラメータに制約のない対立仮説が比較される。この方法論は数理的によく整備されているが、しかし帰無仮説は標本サイズさえ十分大きければ現実的にはほぼ確実に棄却される仮説である。帰無仮説が棄却されることは、論理的に言えば、本来有意義な情報を持っていない可能性が高いと言える。それに対し、情報仮説を直接統計学的に評価することで、研究者のもっている仮説を、データに基づいてより直接的・定量的に扱うことができると考えられる。 情報仮説の評価は、これまでの主な発展が計算機統計学や医療統計学といった限定的な分野にとどまっていた。心理学研究に特徴的な、潜在変数・縦断データ・階層データなどには情報仮説の評価は適用されてこなかった。また、その方法論の数理的な側面の研究も十分に発展しているとはいえない。とくに、ベイズ統計学の考え方を用いて情報仮説を評価することは有望なアプローチと考えられているが、そのための事前分布の設定をどのように行うべきかに関してはいまだに定説がさだまっていない。 そこで本研究は情報仮説の評価という方法論をとくに心理学研究を念頭において整備し、心理学研究のための情報仮説の評価法を確立することを目的としている。これにより、心理学者が持っている実質科学的な仮説を自らのデータで直接比較し、検証できるようになる。このことにより、心理学研究の発展に方法論的な側面から寄与できることを期待する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、仮説検定の限界を乗り越えるための方法論として多くの論文等で注目されている効果量について、計画どおりにバイアス・精度などを調べる研究を行った。とくに、効果量のバイアスについては、既存の論文や教科書等の推奨よりもよりバイアスの小さな効果量を発見した。また、心理学研究においてよく用いられる、信頼性の推定および多次元尺度構成法モデルについての、情報仮説の評価法を開発し、その評価を行った。こうした成果の一部は学内紀要論文誌の論文として出版された。また、さらに本年度の成果を含む論文を投稿中および準備中である。研究初年度ということもあり、平成24年度中に採択にいたったのは上述の1本であったが、平成25年度にはより多くの成果を公表することができると考えている。 また、日本教育心理学会大会のチュートリアルセミナー、および行動計量学会の春の合宿セミナーにおいて、仮説検定の限界および情報仮説の評価といった、本研究課題の成果の一部を紹介する講演を行った。こうした研究成果の公開・普及活動にも今後も積極的に取り組んでいく所存である。 以上のとおり、平成24年度の研究はおおむね研究計画のとおり順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度以降も、当初の研究計画にのっとって研究を推進していく。平成24年度までの研究内容を一層深めつつ、さらなる一般化・具体化を図っていく。 平成25年度は、さらに心理学で用いられることの多い統計モデルについて、情報仮説の評価を用いたモデルの構築および手法の評価を行っていく。とくに、計画書にもあるとおり、縦断的にとられたデータやメタ分析の文脈における情報仮説の評価法を開発する。推定アルゴリズムとしてはマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を利用する予定である。数値実験により、この推定法のバイアスや精度が十分であることを検証する。とくに、情報仮説が真であった場合において、既存の方法論を用いた際にどのようなバイアスが生じてしまうのかを明らかにする。 また、研究成果の公開にも積極的に取り組んでいく。成果を国内外の論文誌に論文として発表することを継続する。また、直近では5月に基礎心理学会のフォーラムで本研究の成果の一部の内容について講演を行うことが決まっているが、こうした研究成果の普及活動にも意欲的に取り組んでいく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画に沿って、研究費を使用していく。近年、仮説検定や情報仮説の評価に関連する書籍・論文などが多数出版されるようになっており、これらの資料をおもに国外から収集する。また、心理学の大きな学会である日本心理学会および国際計量心理学会において、本研究の成果を公開し、多くの研究者と意見交換をし、また本研究の成果を利用してもらうために旅費を使用する。さらに、手法の評価のためには網羅的な数値計算が必要であることが昨年度の研究により判明したこと、近年の計算機の能力の向上が著しいことから、本年度は数値計算用の計算機を購入することを計画している。
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Research Products
(9 results)