Outline of Annual Research Achievements |
MCI(軽度認知障害)等, 記憶障害の兆しを捉える指標として国際的に流通するロジカルメモリ課題は, 日本ではウエクスラー記憶検査法改訂版(WMS―R:杉下, 2001)の下位項目として提供されており, 原版に準じて対象74歳までで標準化がなされている。一方, WMS-Rを完全実施するのではなくロジカルメモリを部分実施する活用法(杉下, 2011: 日老医誌)で, アルツハイマー病が疑われる高齢者などを対象とした記憶障害の評価が行われることがある。この場合, 使用目的柄, 対象年齢以上の後期高齢者(75歳以上)への適用が望まれる。以上を踏まえ, 高齢者, とりわけ75歳以上の後期高齢者に日本語版ロジカルメモリを部分実施した際の健常標準値を得ることを目指し, 調査を行った。 研究3年目にあたる27年度は, 地域在住の高齢運転者を対象としたコホート調査の参加者にロジカルメモリを課すことで標本数の充足をはかった。28年3月までの登録者から, 65歳以上, MMSE > 20で, 症候性の脳梗塞や精神神経疾患の既往歴のない100名を選出して標本に追加した。最終的に得られた標本(65-69歳67名, 70-74歳54名, 75-79歳・高卒相当51名, 75-79歳・大卒以上42名, 80-84歳22名, 85歳以上8名)から直後再生/遅延再生の平均値±標準偏差を算出したところ, 65-69歳層20.0±6.4/15.0±7.0, 70-74歳層19.4±5.7/14.8±5.9, 75-79歳・高卒相当層15.8±5.7/10.6±6.2, 75-79歳・大卒以上層18.2±5.5/11.9±6.3であった。なお各層50名を目標としたものの80歳以上については期間中に満たせなかった。参考値に留まるが80-84歳層16.6±6.1/10.9±5.9, 85歳以上層19.6±5.5/15.0±4.9の平均値±標準偏差であった。研究参加者の背景情報とロジカルメモリ成績および, 他の認知課題とロジカルメモリ成績との関連を解析し, 課題の特性を検討するところまでを年度内に行った。
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