2012 Fiscal Year Research-status Report
日英バイリンガルのL2語彙表象:閾下プライミングタスクによる検証
Project/Area Number |
24730630
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中山 真里子 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (40608436)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 心的辞書 / 日英バイリンガル / 語彙表象 / 音韻表象 / 記憶システム |
Research Abstract |
本研究の目的は,日英バイリンガルを対象に、第一言語(L1)と第二言語(L2)の表記形態が異なるバイリンガルがL2単語をどのように脳内に表象しているかという問題をバイリンガルのL2能力(英語力)の影響に着目して検証するものである。平成24年度は、2つのプロジェクトを遂行した。 一つ目のプロジェクトでは、L2単語の表象のされかたのうち、英語の表記レベル表象に注目し検証した。この実験では、バイリンガルのL2語の表記表象が、L1話者(英語話者)と同じなのかどうかについて抑制的隣接語効果を指標とし、英語力の異なるバイリンガルを対象に語彙判断課題によりデータを収集した。また、その効果をL1話者の行動データと直接比較するため、同じ実験刺激を使用してアメリカの大学生からデータを収集した。実験の結果、バイリンガルの英語表記表象は、L1話者と質的に異なることが示唆された。また、バイリンガルの効果は、英語力の差異に影響を受けなかった。つまり、バイリンガルの英語表象は英語力の高低に関わらず一定であり、英語力の高いグループでさえ、L1話者のそれに近づくことはなかった。 二つ目のプロジェクトでは、L2単語の表象のされかたについて、英語の音韻レベルの表象に注目し検証した。この実験では、バイリンガルのL2語の音韻表象について、Masked onset priming effectを指標とし、英語力の異なるバイリンガルを対象に音読課題を用いてデータを収集した。実験の結果、英語力の高いバイリンガルは、英語話者と同様の音韻表象のユニットを持つのに対し、英語力の低いバイリンガルは、英単語を日本語の音韻表象ユニットにより処理していることが示唆された。 これらのプロジェクトにより、バイリンガルの語彙表象は、英語力の上達により、L1話者のそれと同等に発達する側面、そうではない側面があることを実証的に提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、英語力の向上に伴い、L2表象のされ方がどの程度まで英語母国語話者のそれに近づくのか及びその限界を探る研究を中心に行っている。つまり、英語力の違いによる語彙表象の発達的側面を検証することに重点を置いている。本研究では英語力の異なる多数のバイリンガル(プロジェクト1では60人、プロジェクト2では、90人)が参加したことから、この目的に沿う、比較的信頼性の高いデータを収集することができたと判断している。 プロジェクト1では、L2表記形態は、L1話者のそれと質的に異なる形で表象されているという解釈に整合的なデータを観察した。24年度から現在にかけて、この解釈の妥当性を高めるためにこの解釈と反証的な立場からの実験を行っており、結果は概ね当初の解釈と整合的なデータが観察されつつある。従って、論文投稿に際し、採択の可能性が高いデータセットが揃う見込みである。 プロジェクト2では、L2音韻形態のある特性(Phonological Unit)は、英語力の高いバイリンガルであれば、L1話者と同様に表象されるようになることを示した。この結果は、国際的にも初めて発表される結果であり、当該研究領域において新たな知見を提供するものである。プロジェクト2の実験結果は既に論文執筆を終え、現在国際誌に投稿中である。 また、この研究の推進に際し、海外でのデータ収集を含め、当該領域の第一線で活躍する複数の研究者と情報交換を行っている。世界レベルでの研究者となるためにはこうした交流を通して研究における視野を広げることが不可欠であると考えている。このように、研究者としての人的ネットワークの構築が進んだことも24年度の実績として評価できる点であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究は、実験計画に沿って行い、実験結果も含め順調に推進していると考えている。そのため今後も、研究計画の大幅な修正はせず、当初の計画通りに研究を継続していく予定である。 具体的には、25年度前半は、24年度に行ったプロジェクト1のフォローアップ実験を進めることを最優先させる。データの取集が完了次第、論文をまとめ、投稿する予定である。同時に、バイリンガルの音韻ユニットの検証について、プロジェクト2の研究結果をさらに発展させた実験を行う。具体的には、日本語の音韻ユニット(モーラ)よりも小さい英語音韻ユニット(音素)を習得したバイリンガルが、どちらのユニットを使用して日本語の単語を処理するのかについて検証を行う。これにより、バイリンガルが言語によりユニットを使い分けるのか、それとも言語に関わらずより小さいユニット(音素)を使用するのかが明らかになる。 次に、25年度後半から26年度にかけては、研究計画書に記載した通り、L2単語の記憶システムと英語力の影響についての検証を行う予定である。 また、現在までに得られた新たな知見をを学会等で積極的に発信し、領域全体の発展に貢献したいと思っている。同時に、そこで得られるフィードバックを活かし、今後の研究の質を高める努力をていきたいと思っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は、海外のデータ収集(L1英語話者対象)のセットアップの為の出張を計画していた。データ収集を予定していた研究室は数か所あったが、今回はアリゾナ大学の研究者にデータ収集をお願いすることになった。データ収集に応じてくださった研究協力者は、自身が当該実験で使用している刺激提示プログラムの開発者であった。従って、刺激提示プログラムの動作確認や、ハードウェアやソフトウェアのセットアップ等は研究協力者が代理で行ってくださった。また、研究協力者は現在もそのプログラムを使用して恒常的に言語心理関連のデータ収集を行っていることから、本実験の手続きの説明や、RAの手配等は、メールやスカイプで打ち合わせを代替することが可能であった。このことから、24年度は、予定よりも研究費の支出が低くなった。 次年度以降の研究費の使用計画であるが、概ね研究計画書通りに研究費の費消を行いたいと考えている。費消の内訳で割合の高いものとして、データ収集の為の被験者への謝礼、データ取集補助の為のRA雇用代、研究の成果を発表する際の国内外旅費、そして国際誌への投稿の為の英文校閲費などが挙げられる。
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