2013 Fiscal Year Research-status Report
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24730642
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
柳井 修一 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (60469070)
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Keywords | 記憶・学習 / 認知症 / Cilostazol / Phosphodiesterase (PDE) |
Research Abstract |
本研究はcilostazol(プレタール)とdonepezil(アリセプト)の併用がマウスの記憶・学習課題の遂行に及ぼす効果を検討することで、ヒト高齢者における抗認知症薬併用療法の基礎を確立することを目的とする。今年度は2系統のマウスを用い、飼料に混ぜて(混餌)単独投与したcilostazol(0, 0.3, 1.5%濃度)が加齢に伴う記憶・学習障害に及ぼす効果を検討した。cilostazolを10ヶ月間投与した23ヶ月齢の老齢マウス(C57BL/6J)では、物体探索課題、水迷路課題においてcilostazolによる容量依存的な記憶・学習障害改善効果が認められた。特に、1.5%cilostazol投与老齢マウスでは若齢マウスと同程度にまで記憶・学習機能が改善されることを明らかにした。老化促進マウス(SAM)では、平成24年度に実験条件を確立した恐怖条件付け課題を用いて行動評定を行った。cilostazolは上記濃度を用い、投与期間はSAMにおいて学習障害が認められる月齢を考慮して3ヶ月間とした。0.3%cilostazol投与マウスの記憶障害は改善されなかったが、1.5%cilostazol投与マウスの記憶機能は通常老化マウスと同程度まで改善されることを明らかにした。また、これら2系統のマウスについては、HPLC法を用いた血中cilostazol濃度の計測も完了し、濃度依存的かつ投与からの時間依存的に血中cilostazol濃度が低下することを明らかにした。 本年度の成果は、現在抗血小板薬として臨床で用いられているcilostazolを認知症治療薬として用いることができる可能性を示唆している。また、一部で記憶改善機能が認められたcilostazol濃度(0.3%)を用いることにより、donepezilとの併用効果を敏感に検出できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いる被験体4系統のうち、平成25年度までにC57BL/6Jマウス及びSAMマウスについてcilostazol単独投与下での行動評価を行った。その結果、cilostazolが記憶・学習障害に及ぼす効果は容量依存的であり、高濃度では統制マウスと同程度まで記憶・学習機能を改善できることを明らかにした。C57BL/6Jマウスではcilostazol単独投与下で十分なデータを取得できたと考えられるため、今年度以降はdonepezilとの併用効果を検討する。SAMマウスにおいてもcilostazolの記憶改善効果が認められたものの、薬物に対する反応に個体差が大きいことが明らかになった。本研究で得られる知見の信頼性を高めるため、cilostazolとdonepezilの併用効果を検討する予定であったSAMマウスを用い、cilostazol投与下での行動評価について再現性を確認する予定である。 アルツハイマー病モデルマウスである3ヶ月齢の3xTgマウスでは、課題遂行中に多く認められる無動反応が記憶・学習課題の遂行に影響を及ぼす可能性が考えられた。3xTg本来の行動学的表現型を得るために3xTgは体外受精で胚を作成し、戻し交配を行った。体外受精後の交配は順調に進んでおり、今年度上半期までには交付申請書に記載した実験を遂行するために十分な被験体数を確保できる見込みである。 Tg2576では自然交配による繁殖を試みているが、妊娠しない、もしくは出生直後に仔が死亡するなどの理由で産仔を得ることができていない。そのため、体外受精を用いることで産仔を得るよう試みる。 以上の進捗状況から、当初の交付申請書作成時の計画から若干の変更と遅れがあるものの、概ね予定通りの進行であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
C57BL/6Jマウスでは、今年度までにcilostazol単独投与による用量依存的な記憶・学習改善効果を明らかにすることができた。次年度はdonepezilの単独投与およびcilostazolとdonepezilの併用が記憶・学習課題の遂行に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした予備実験を行う。Donepezilの投与法として、マウスに過剰なストレスをもたらさないと考えられる飲水投与を用い、濃度は0.1mg/kg及び0.3mg/kgとする。また、今年度の研究発表において、cilostazol投与が老齢期に多く認められるうつ病に及ぼす効果を検討すべきであるとの指摘を受けた。マウスにおけるうつ様行動を評価するため、新規に強制水泳課題及び尾懸垂課題の立ち上げを行う。 SAMマウスを用いて行った今年度の実験結果から、SAMマウスは野生型のC57BL/6Jマウスよりも薬物に対する反応に個体差が大きいことが明らかになった。現在飼育しているSAMマウスを用いてcilostazolとdonepezilの併用効果を検討する予定であったが、cilostazol単独投与の効果に関する知見の信頼性を高めることを目的とし、これらのSAMマウスを用いてcilostazol投与下における行動評価の再現性を確認する。 3xTgは今年度に戻し交配を行ったため、現在実験に用いる被験体の飼育を開始したところである。3xTgが3ヶ月齢及び12ヶ月齢に達した時点で、薬物非投与下における行動学的基礎データを収集する。また、自然交配による産仔を得ることができなかったTg2576については、体外受精を用いることで産仔を得るよう試みる。
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