2012 Fiscal Year Research-status Report
集団思考の深化を図る授業過程の構築に関する理論的・実証的研究
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24730647
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
杉本 憲子 茨城大学, 教育学部, 准教授 (70344827)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 教育学 / 集団思考 / 授業過程 |
Research Abstract |
本年度は、以下の点を中心に研究を進めた。 第1は、集団思考の場の充実とその指導上の課題について、今日の児童・生徒の学力・学習状況および関連する先行研究等にもとづいて検討した。まず、学力上の課題、人間形成上の課題を踏まえて、子どもが対象・他者・自己と向き合い相互に思考を深める場の充実が求められる今日的状況を明らかにした。集団思考の成立・展開過程の把握については、上田薫の理論を手がかりに子ども・教師相互の思考の関連が立ちあらわれる場に着目した検討をおこなった。また集団的な思考を促す授業実践上の課題を検討するため、子どもの表現と考え合う授業づくりを重視した長岡文雄と日比裕の論考を検討した。それに基づいて、子どもの表現を促すための教師の役割を、表現する場の設定の側面とそれを見取り評価する側面とから整理するとともに、子どもの思考・表現とその相互の交流を促すための教師の指導の在り方について考察した。 第2は、話し合いの場をはじめとする集団的な思考の場を対象とした授業研究の実施についてである。本研究では、集団思考が成立・展開する過程・要件、またそれを支える学習基盤の形成過程を究明するために、研究授業の実施と授業分析、継続的な授業観察と授業者との研究協議等の実施を計画している(中心的には2年次)。本年度は、小学校の話し合い活動を中心とした授業観察及び授業者との協議に着手し、児童相互が考えを関連づけ話し合いを深めるための授業計画段階・実施過程での指導方法の観点から検討した。また次年度の授業観察・記録の実施や研究進行上の配慮事項について、授業者・実施校との打ち合わせを行い、次年度の研究計画を具体化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、集団思考の質的な深化を図る授業過程の構築を目的とし、主として下記の課題を究明するものである。 1)研究動向や先行研究の検討を通して、今日の授業実践上の課題を集団思考の深化という点から捉え直すとともに、集団思考の過程と構造に関する理論的基盤について整理する。 2)具体的な授業の分析を通して、集団思考の深化を図る授業過程の構築やその要件を明らかにする。 3)学級を単位として営まれる学習活動において、2)のような集団的な思考の場が成立・深化するための学習基盤の形成過程や指導方法を明らかにする。 1)については、子どもの学力形成上の課題等を踏まえて集団思考に関わる今日的動向・実践上の課題を整理した。また先行研究を手がかりに、思考の相互関連とその展開過程の把握およびその充実のための教師の指導の在り方について検討し、研究の成果については論文としてまとめた。2)・3)は、学校現場での授業研究・授業分析を通して究明する課題であり、本年度は小学校の話し合い活動を中心とした授業研究及び授業者との協議に着手した。授業過程での教師の指導のみならず、授業計画段階において子どもの考えを把握し、子ども相互の考えの交流を促す授業構想の重要性が把握された。また授業研究の中心的実施を予定している2年次の研究に向けて、授業協力者・学校との打ち合わせを行い、次年度当初から円滑に実施できるよう準備を進めた。上記の進捗状況より、おおむね計画に即して研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、以下の点が挙げられる。 1)計画にもとづく円滑な実施:本研究において今後重点的に実施する授業観察・記録等について、実施体制に関する打ち合わせ・計画は1年次の段階で既におこなっているので、次年度当初より計画に即して実施を進める。 2)研究課題の究明のための研究方法の工夫:研究授業の実施にあたっては、本研究課題が究明できるよう、子どもの学習過程の記録方法を工夫する。ビデオ等による授業過程及び子どもの発言の記録の他、集団思考と個の学習過程を詳細に把握できるよう作文・ノート等の記録を取り入れ、学習活動の特質に合わせた表現方法・記録方法の工夫をおこなう。また、集団思考の成立には、学級の子どもが自身の考えを他と関連づけてとらえていく学習基盤づくりが重要となるので、学級を単位とした継続的な授業観察・授業研究を実施する。 3)研究体制の工夫:実施した研究授業の資料整理・記録作成等は、大学院生の協力を得るなどして効率的に進め、スムーズに分析に着手する。また本研究は、調査や研究成果の発表をはじめ、授業者・学校の理解と協力を得て実施することが重要であるので、連携を十分に図り研究を進める。 4)研究成果の発表と改善:本研究の成果については、学会(日本教育方法学会等)での発表あるいは研究論文等として発表し、研究成果と課題を整理して研究の進展を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」の研究費は、主として授業観察・記録のために本年度購入を計画していた物品が当初見積もりより低い価格で購入可能であったこと、県内学校での授業研究・打ち合わせの実施により、旅費・通信費等が抑えられたこと等により生じたものである。 次年度は、「物品費」として、関連図書購入(集団思考と学習基盤形成に関する研究書、実践研究図書)の他、授業研究に関わる教材および記録用の消耗品等を使用する。また、学校現場での授業観察・記録、日本教育方法学会等をはじめとする関連学会や、先進的実践校調査・資料収集のための研究会参加に係る「旅費」の使用を予定している。実施した研究授業については、大学院生などの協力を得て資料整理および逐語記録化を行うため、「人件費・謝金」の使用を計画している。「その他」として、研究授業実施校との通信費、実施した授業に関する資料の印刷等に係る費用の使用を予定している。 次年度は、学校での授業研究と記録・分析を中心的に実施する研究年次であり、その円滑な実施のために、本年度の段階で協力校との打ち合わせ・連絡等の準備をおこなった。研究実施に関わっては調査研究旅費および教材費、人件費等が必要となり、本年度は県外学校での授業研究も計画している。本年度生じた「次年度使用額」も合わせて有効に活用し、十分な研究成果が挙げられるよう計画的な研究費の使用をおこなう。
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