2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730704
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
田中 理絵 山口大学, 教育学部, 准教授 (80335778)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 児童虐待 / 再生産 |
Research Abstract |
本研究の目的は、児童虐待を経験した後の子どもの社会化パターンを成人期まで長期にわたって解明することである。なかでも、「児童虐待の再生産」に関わる諸要因を実証的・理論的研究において析出することを目的としている。児童虐待の再生産問題は言説として一般に広く流布しているが、児童福祉現場では必ずしもそうとは言い切れないといった知見も出ている。この点を含め、子ども期に虐待を経験した者がどのような社会化過程を経て親になるのかについて、丁寧な生活史調査から解明する。 そのため、本年度は研究計画に従って以下の調査研究を行った。 I.実証研究:虐待経験者への面接調査の実施と参与観察 調査研究1.面接調査による生活史の蒐集:子ども期に児童虐待を経験した者で、18歳以上のものに対する面接調査を行い、生活史的事例を蓄積した。そのなかで、児童虐待の再生産については、①経済的に不安定な生活環境と②家族資源の乏しさが大きな要因として浮かび上がったので、ひとり親世帯の多い地域の中学校教員に対しても聞き取り調査を実施した。中学校教員の聞き取りからはじめたのは、進路決定の分岐時点にあるためである。調査研究2.参与観察による実態調査:児童虐待を受けた子どもたちは、ケースに応じて、生活面・情緒面・勉学面での回復のため社会的監護を受けることになる。そこで、児童養護施設での参与観察を実施した。なかでも特に、中学3年生と高校3年生に注目し、それぞれがどのように進路選択をしていくのか、そのときに家族はどのように関わるのかなどについてフィールドノーツをつけた。 II.理論研究:児童虐待を受けると子どもにどのような影響が及ぼされるのかについて、精神医学、心理学面での先行研究についてまとめ、分析を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付金のおかげで継続的な参与観察を行うことができ、児童虐待を受けた子どもたちを取り巻く環境の変化についても、学校・社会福祉施設・家族など多様な社会化エージェントとの関係の中で観察をすることができている。そこで得られた知見をベースに、子どもたちへの聞き取り及び児童虐待経験者である成人への聞き取り調査についても、より多層的で複雑な質問が可能となっている。特に、こうした聞き取り調査、フィールドワークを通して、児童虐待の再生産の背景には、社会的・経済的要因が大きく関与しているのではないかという仮説を得ることができたことは重要な成果である。 一方、理論研究において、児童虐待の主要な研究分野である精神医学および心理学の先行研究を分析中であるが、どのようにして「児童虐待は再生産する」という言説が流布するようになったのかについても引き続き研究を進める予定である。 以上より、おおむね順調に進展していると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、子ども期に児童虐待を経験したものを対象に調査分析を行っているが、その前段階の研究として科学研究費の補助を受けて平成14年度~19年度(若手B)、平成21~23年度(若手B)に「家族崩壊下の子どもの社会化研究」に従事させていただいてきた。そこで出会った子どもたちが、ちょうど現在、生殖家族を形成している年代になっており、彼らがどのように家族を形成し、出産、育児を行っていくのかについて調査を行うことが可能となっている。 そこで平成25年度は、児童虐待を受けた子どもの参与観察と並行して、彼らへの聞き取り調査を実施し、データの収集に努める予定である。 また一方で、理論研究として、児童虐待の再生産言説がいつ頃からどのようにして形成・流布するようになったのかについても、社会学的に分析・考察を加えていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【実証的研究】児童虐待経験者への面接調査および参与観察の実施 前年度に引き続き、児童虐待経験者(18歳以上の者)に対する面接調査と、現在子ども期にある虐待児童の参与観察を行い、生活史的事例の蒐集を行う。平成25年度は、特に「児童虐待の再生産」要因に関する言説に注目する。「虐待を受けた子どものは自分も虐待をする親になる」という言説は一般の人びとだけでなく、虐待児童までも信じ込んでいる。しかし東京都の調査などでは必ずしもそうとは言い切れない可能性も報告されている(東京都福祉保健局『児童虐待の実態II』平成17年)。申請者も平成24年度に行った調査から、児童虐待は単純な模倣モデルでは説明できず、むしろ子ども期に適切な社会化機会を阻害されたことによる基本的生活習慣の欠如や不適切な経済観念が、新たに作る生殖家族の中で児童虐待をうむ要因になっているという仮説を持つに至った。そこで、虐待被害の経験者に対する面接調査を通して、本仮説の検証を行うこととする。そのため、国内旅費および謝金を必要とする。また、こうしたデータはプライバシーの保護と匿名性の確保を求められるため、その記録・分析用のパソコンを必要とする。なお、平成24年度は一部の調査対象者の都合により国内調査を予定通りに実施することができなかったため、その分の旅費および物品費用については平成25年度に使用する予定である。 【理論的研究】実証研究と並行して、「児童虐待の世代間再生産」言説の分析を行う。その後、相互作用論的視点から本言説が子どもの社会化に及ぼす影響について研究を試みる。そのために「児童虐待」「社会化」「家族病理」をキーワードに社会学・精神医学・心理学・文化人類学等の分野における当該研究関連図書を必要とする。 なお各費用は全体の研究経費の90%を超えない。
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