2012 Fiscal Year Research-status Report
栽培教育の現状と課題に関する基礎的研究:学校園の地力改善をめざして
Project/Area Number |
24730724
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
荒木 祐二 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (00533986)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 栽培学習 / 土壌改善 |
Research Abstract |
埼玉県内の小・中学校を調査対象とし、本年度は(1)栽培学習の現状を把握するための教員向けのアンケート調査,(2)小中学校を訪問しての学校園の土壌診断,ならびに(3)簡便な土壌診断に用いる指標の検討を実施した。 (1)アンケート調査では,小学校で176校,中学校で86校から回答を得て,栽培学習の実施状況ならびに栽培学習の実施を妨げる要因,栽培学習に関する教員の抱える不安について分析し,栽培学習が抱える課題を5つに類型化できた。 (2)学校園の土壌診断は,56校の協力校に赴き,学校園の立地と土壌状態を記録するとともに,担当教員に対して学校園の履歴等に関するインタビュー調査を行い,学校園を総面積(50㎡)と腐植率(3%)を境界として区分し,学校園を4つのグループに分類した。中学校では小面積の学校園は全く使用されておらず,総面積が50㎡を超えても腐植率が低ければ使用率は約3割にとどまり,大規模で腐植率の高い学校園は,地域の支援を受けて6割ほどが利用されていることを明らかにした。 (3)土壌診断の指標については,健全な土壌にみられる団粒構造に着目しその指標化を図り,埼玉大学農場において実験を試みた。土壌分析の結果,赤褐色土と黒色土の間に腐植率とpHは差がみられたがそれ以外の土壌成分には明確な違いが認められなかった。土壌成分は状況によって常に変化し,正確な結果を得るには資金的・労力的な負担が大きいため,学校現場で実施するには難しいことが分かった。しかし,本研究で試みた,組み篩(目開き:3.0mm,2.0mm,1.0mm,0.5mm)を用いた湿式篩別法と腐植率の測定によって,健全な土壌の指標として,指標①~③の3段階が有用となり,教育現場の学校園において土壌診断を簡便に実施できる可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた研究協力校の選定と,栽培学習の現状を把握するための教員向けのアンケート調査の実施,協力校の学校園を訪問しての土壌環境調査,土壌分析器を用いた土壌診断は予定どおり遂行できた。アンケート調査の結果から以下のことを明らかにした: (1)多くの教員は栽培の受講経験ならびに指導経験が乏しいため,栽培学習の指導に不安を感じていること,(2)栽培学習は実施されているものの実施学年や実施期間は学校によって大きく異なり,単年度で実施する学校の教員は,2年またがって実施する学校の教員よりも不安を感じる割合が高いこと,(3)栽培学習が抱える課題は,①時間的制約,②空間的・物質的制約,③指導法の未確立,④植物育成上の障害,⑤教員の知識・情報の不足の5タイプに集約されること,(4)各タイプに応じた解決策の方向性が見出された。また,学校園の土壌診断によって,さいたま市内の中学校の学校園の多くは小規模であり,土壌成分も栽培学習に適正な状態になく,2~3年前に新設されたばかりで,土壌は瓦礫が混じり,肥沃度の低い赤褐色土を呈していることが分かり,小面積で肥沃度の低い学校園は栽培学習にほとんど利用されない現状を明らかにした。 また,申請時の計画にはなかったことだが,学校園の土壌状態を診断するにあたり,教育現場で簡易に診断する方法を模索し,組み篩を用いた湿式篩別法と腐植率の測定によって,健全な土壌の指標として3段階の指標が有用となる可能性を示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の計画では「アドニス堆肥」を用いた学校園の土壌改善とそのモニタリングを予定していたが,想定以上に多くの学校園が開墾直後で痩せた土壌であったことから,最適な施肥の量とタイミングを予め判断する必要があると考え,先にこの解明に図り,アドニス堆肥の施肥の最適性を明らかにしたうえで,学校園の土壌改善を実践するように予定を変更する。ここでは,埼玉大学構内農場において,アドニス堆肥を投入しないコントロール区画と施肥量や施肥のタイミングの異なる条件下においてサツマイモを栽培し,その収量と土壌診断の結果から,施肥の最適性を明らかにする。この結果をもとに,協力校の学校園においてアドニス堆肥を投入し,土壌の物理性・化学性に関するモニタリングを開始して学校園の地力回復を図る。同時に,本年度の調査で見出された健全な土壌の指標として3段階の指標の妥当性について引き続き検証する。 また,前年度と同様に、選定した協力校の学校園から土壌サンプルを収集し、土壌診断を実施する。研究成果を公開するためのホームページを開設し,前年度の診断結果を公表するとともに、栽培学習に用いる教材や学校園での露地栽培に関する情報をインターネット上で発信していく。ホームページは、次年度以降も活用し、継続的なモニタリング体制を構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)消耗品として,土壌診断機器用試薬キットを300千円,校正標準液等の60千円,アドニス堆肥100袋の45千円,論文別刷りの20千円 (2)旅費として,埼玉県内の学校調査に100千円,日本産業技術教育大会全国大会(山口大学)での発表に65千円 (3)人件費として,調査補助の謝金に150千円,土壌分析補助の謝金に60千円 以上の合計800千円の使用を見込んでいる。
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