2013 Fiscal Year Research-status Report
国語科教科書に内在する言語観に基づいた言語研究のための基盤的研究
Project/Area Number |
24730731
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岩男 考哲 信州大学, 教育学部, 准教授 (30578274)
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Keywords | 学習指導要領 / 言語 / 文化 / 比喩表現 / 国語科 |
Research Abstract |
小学校学習指導要領(国語)の〔第5学年及び第6学年〕における〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕「イ 言葉の特徴やきまりに関する事項」に「(ケ)比喩や反復などの表現の工夫に気付くこと」とあり,さらには中学校学習指導要領(国語)の〔第1学年〕における〔伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕「イ 言葉の特徴やきまりに関する事項」にも「(オ)比喩や反復などの表現の技法について理解すること」とある.これは指導要領解説(小学校)に「比喩や反復など修辞法に関する表現の工夫をまとめて考えられるように今回の改訂で新設した事項」とある.この比喩表現等を「工夫」や「技法」と捉えている点に,現在の国語科の言語観の一端が現れているように本研究では考えた.例えば,現在の言語研究では,比喩表現(明喩・隠喩)は単なる表現の技法という枠を越えて,人間の認知活動に根ざす行為であるという捉え方が主流である(例えば,George Lakoff & Mark Johnsonによる"Metaphors We Live By"を参照).ただし,このことで「国語科教育は(言語研究の現状から見て)遅れている」とか「国語科は至急,最新の言語研究の成果を取り入れるべきだ」といった主張を行いたいわけではない.そうではなく,ここに現在の国語科教育の言語観(さらに言えば,言語研究の現状と国語科教育の違い)が現れていると考えられるのである.簡潔に述べると,ここに見られる国語科の言語観とは,そしてコミュニケ-ション観とは,伝えたい内容がまず言葉とは別に客観的に存在し,言語とはそれを表す手段(倒置法であったり比喩であったりといった手段),つまりその内容を伝えるための技術であるといったものである.繰り返すが,これに賛同したり反対することは現在の目的ではない.本研究では現在,こういった言語観のあぶり出しにまで到達している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画よりもやや遅れている.その理由として,まずは考察対象の拡大が挙げられる.当初は,国語科内における言語観の変遷を見ることで,国語科の現状を浮き彫りにすることを目指していた.しかし,国語科の特徴をより明確にするためには,国語科以外の教科へと目を向けることも重要であるという結論に至った.その結論に至るための考察,また,それにあたっての考察対象の拡大により,遅れが生じている.また,当然ながら他教科の専門家とのつながりも必要となった.そして,そのコネクションを作るため,他学会への参加も積極的に行った.これも遅れを生じさせた要因である.しかし,現在,これまでの成果をまとめた論文を執筆中であり,十分に遅れは取り戻せると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)外からの視点の導入 当初の計画では26年度までに国語科に内在する言語観を抽出する予定であった.そしてその手法として,国語科教科書の歴史的変遷を辿る,教科書編者へのインタビューを行うといったものが計画されていた.それはもちろん,重要なことで行う予定ではあるのだが,それに加え,他教科教育の専門家から見た国語科教育という観点からの分析も欠かせないという結論に至った.当初の計画では内側からの視点のみで研究計画が練られていたのが,そこに外部からの視点も導入しようという結論に至ったわけである. (2)実行計画 他教科との連携ということで,現在,英語教育の専門家との連携を計画中である.特に小学校における「外国語活動」の学習指導要領には「コミュニケーション」という語が頻繁に(具体的には19回)用いられている(ちなみに,国語科は0回であった).そういったコミュニケーションを前面に押し出した教科の専門家から見て,国語科の言語の捉え方はどう見えるのか,実際に意見を募り,更には英語科内の言語の捉え方はどうであるかの考察も行うことで,考察に深みを持たせる計画である. また,当初の計画通り,外国における言語指導の実態も調査予定である.現在,台湾の大学の研究者と計画を進めており,早ければ,26年度の秋に実際に調査に向かう予定である.更には,従来の学校教育の枠とは異なるかもしれないが,日本語非母語話者への日本語教育を行っている専門家との対話も行う予定で計画を進めている.日本語教育の専門家への依頼は順調に進んでおり,これがうまくいけば,仮に海外で十分に調査が行えなかったとしても十分にそれを補うことが可能であろう. これらの研究を推進する具体的な第一歩として,6月上旬に英語教育の専門家と日本語教育の専門家とで会議を行う予定となっている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入予定であった書籍が当初に予定されていた金額よりも安い価格で購入できたことが理由である. 26年度経費は当初の計画どおり執行する.具体的には,言語教育事情に関する専門書の購入に加え,学会等でのプレゼンテーションに使用する機器やデータを収集するための機材を購入予定である.また,言語教育関係の文献は当初予定していた母語教育関係の物に加え,外国語(非母語)教育関連の物も購入することになる.25年度残額については,先に述べた研究対象の拡張により,当初の計画以外の分野の書籍の購入も必要となることが予想されるため,その費用にあてたいと考える.
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