2015 Fiscal Year Annual Research Report
国語科教科書に内在する言語観に基づいた言語研究のための基盤的研究
Project/Area Number |
24730731
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岩男 考哲 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (30578274)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国語教科書 / 比喩表現 / 明喩 / 具体的語彙 / 抽象的語彙 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,最終的には,国語教育と言語教育(主に,日本語を対象とした言語学)との有機的な連携のあり方を探ることを目的とした研究であった.そのために今回の研究期間で主に行ったことは,国語教科書に内在する「言語観」とはどういったものであるかという問についての考察であった. 具体的には,国語教科書に現れる比喩表現に着目した.比喩表現が単なる表現技法の世界におけるレトリックの問題だけではなく,人間の世界の認知や理解に大きく関わっていることが指摘されて久しい.特に,未知の事物に出会った際,我々は既知の知識を用いて理解しようとする.その時にも比喩表現(「まるで~のようだ」)が用いられる.ということは,国語教科書の比喩表現の推移を探れば,国語科が各学年において,どういう事物を既知のものとし,どういう事物を未知のものとしているかを知ることができる.つまり,国語科の想定する,子どもの言語獲得の過程を知ることができるのである. こうした前提に基づき,本研究では全出版社に登場する比喩表現の調査を行った.特に明喩表現(直喩表現)に調査の対象を絞った.これは,暗喩(隠喩)表現の場合,当該の表現が比喩なのか否かの判断が調査者によって揺れることによるためである.その結果,国語科では,小学校4年生を境にして,抽象的な語彙を用いた比喩表現が増加していることが明らかになった.こうした偏りが意識的に行われているのか無意識に行われているのかは不明だが,少なくとも,国語科の思い描く言語観の一端は明らかに出来たものと考えられる.また,この調査結果により,今後は比喩ではない,ただの単語においても同様の傾向が見られるのか否かを調査する必要と,子どもの言語獲得と国語教科書の変化とがどのように対応しているのかも調査する必要が生じた.
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