2012 Fiscal Year Research-status Report
隠れマルコフモデルに対する統計計算手法の漸近的解析
Project/Area Number |
24740062
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鎌谷 研吾 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00569767)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | モンテカルロ法 / マルコフ連鎖 / 隠れマルコフモデル |
Research Abstract |
モンテカルロ法の様々な性質の研究を行った.とくに混合モデルやカテゴリカルモデルでの局所退化性のレートの簡便な解析法を提案した.理論的にはおかしな挙動をしないはずのモンテカルロ法は,実際には上記のモデルではしばしばおかしな挙動をする.その原因と問題の根深さをレートで測った.これらの結果によると,異なった問題と思われていたものが同一のボトルネックに起因すること,ある手法の問題点と指摘されていたものが単に設定上の問題であったことなどがわかる.このような新たな視点を提供することは新しい手法の解析に有用だろう.また,モンテカルロ法を離れ,隠れマルコフモデルと関連して,拡散過程の非正則な挙動や,遺伝統計学における多次元小標本モデルの挙動を調べた.前者は,既存の理論研究と異なり,拡散項推定がドリフト項推定の精度に劣る現象の解析を,後者は集団のハプロタイプ頻度の新しいモデルを考え,実際に観測される現象の再現とよりよい推定量の構成を試みた.これらはまだ完成されておらず引き続き次年度解析を行う. セミナー運営として二点,統計サマーセミナー(東工大田中研太郎助教と共同主催; 27講演,15ポスター)および統計数学セミナー(東大吉田教授と共同主催;20講演)を行った.また,京都,つくば,ブリストル,パリ等各所で講演およびポスター発表を行った.九月にフランス第八大学およびCREST研究所にC. P. Robert教授を訪問し,ベイズ統計学における混合モデルで著名な同教授とディスカッションを行い,実用面での混合モデルのマルコフ連鎖モンテカルロ法への助言を得た.この結果を論文として投稿準備中である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
隠れマルコフモデル(HMM)の解析とそれに対するモンテカルロ法の解析が本年の主たる目的であった.多くの既存研究が示す通り,混合モデルとHMMは共通の非正則性を持ち,理論的な解析手法も似通っている.したがってまず混合モデルの解析を中心に研究を進めた.その結果として当初予測していなかったものも含む,混合モデルの非正則な現象を観測し,それに対するモンテカルロ法も退化してしまうことがわかった.さらにそのボトルネックを特定することにより,モンテカルロ法の改善手法を提案することが出来た.実際に計算機でのパフォーマンスを見ても理論的結果は事後分布の振る舞いやモンテカルロ法の振る舞いをうまく表現できている.上述したとおりこの結果は論文として投稿準備中である.また本研究は想定外であったカテゴリカルモデルの解析にも直接適用できることがわかり,様々なモデルに対して従来得られなかった視点を提供することが出来た.これらの結果も投稿準備中である.その他拡散過程の統計や遺伝統計学におけるハプロタイプ頻度のモデルの解析など当初予定していなかった方向への進展もあった. 以上の本年の研究と当初の目的と照らしあわせて,想定より進んだ部分は混合モデルに対するモンテカルロ法の新しい提案手法の提供まで踏み込めたことと,カテゴリカルモデルなど想定外のモデルの解析である.一方で当初より進まなかったのはHMMそれ自体の解析である.理論的な類似点の多いHMMと混合モデルであるが,実用上な差異は小さくない.とくに逐次モンテカルロ法とそれに類する手法は今年扱えなかった.但し上述したとおり混合モデルの解析は有効な一歩であり,想定外に進んだ部分も鑑みると概ね順調と思われる.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は隠れマルコフモデル(HMM)の解析を行う.前年度で混合モデルに対する解析を行ったため,おおよその方向性をつけることが出来た.とくに非正則な統計モデルとしては混合モデルの延長線で解析できると期待される.HMMに対するモンテカルロ法はさまざまな手法が提案されているものの,これらの包括的な比較は数値計算上も,理論的にも困難である.状況に応じて優劣があるものと思われる.理論的な正則条件を整備することがこれらの解析につながるだろう. HMMの解析と合わせて,遺伝解析における主成分分析の解析も行う.あまりに多量なデータに対しては主成分分析の有用性を強く感じる.実際,4年ほど前から遺伝子や表現型の集団構造の補正という視点から主成分分析は一つのトレンドであった.主成分分析の解析を行い,これらがよく集団構造補正にマッチした理由を探ることで,HMMのよりよい適用の仕方を探ることが出来ると期待される. 7月にはハンガリーでヨーロッパ統計学会の年会に出席する予定である.とくにフランスのベイズ統計学の発展は近年めざましく,HMMや混合モデルの解析とそれに対するモンテカルロ法の進展が目覚ましい.意見交換し,今後の研究に役立てる.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
隠れマルコフモデル(HMM)に関連する,コピーナンバー多型の解析を念頭においた解析手法を考える.初年度と二年目の知見があれば,新しい手法構築の方向性は定まるだろう.従来の私のMCMCの研究であれば,フィッシャー情報量へ注目することが効率の良いアルゴリズム構築の良いアプローチであった.コピーナンバー多型の特性に合わせてよりよいアルゴリズムの構築を試みる.有用な手法の開発のためには遺伝統計学者と連絡をとる必要があり,場合によっては長期海外出張を行う.また,可能であれば解析プログラムの開発を行う.二年の進展が想定以上である場合は,より細かい収束レートの解析も試みる.場合によって細かい収束レートの差が実際のパフォーマンスに重要な場合があるかもしれない.一方,想定が予想通り進んでいかなった場合,引き続きHMMや既存の統計計算手法の理論研究に従事する.計算機については三年目はより手探りで実行していく必要がある. 様々なパラメータを変更させてパフォーマンスを見るなど, 人出が必要である.数名の大学院生の協力を得る.それに伴い, 新しい計算環境を構築する.以上の研究成果を各所で発表,公開する.
|
Research Products
(6 results)