2012 Fiscal Year Research-status Report
非線形分散型方程式の初期値問題に対する空間周期的な解の存在と大域挙動
Project/Area Number |
24740086
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岸本 展 京都大学, 白眉センター, 助教 (90610072)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 非線形シュレディンガー方程式 / 初期値問題の適切性 / 周期境界条件 |
Research Abstract |
本研究では,非線形分散型偏微分方程式の初期値問題の適切性を広いクラスの初期値に対して解明するとともに,解の正則性・特異性や時間大域挙動といった性質を調べることが目的である.特に解が空間周期性をもつ場合(即ちトーラス上の初期値問題)に興味がある.平成24年度は前年度からの冪乗型非線形項を持つ非線形シュレディンガー方程式の研究を継続して行った. 空間2次元以上では異なる2方向に対して別々の周期を考えることができるが,2次元で3次の非線形項をもつ場合の先行研究では,2方向の周期の比が有理数であれば,尺度変換で不変な臨界正則性の空間で初期値から解への対応が滑らかになり得ないというトーラス特有の現象が起こることがわかっていた.本年度はこれを「ある条件」をみたす無理数の比の場合に拡張することができた.ここで「ある条件」とは,無理数を有理数列で近似する際の精度に関するもので,数論におけるディオファントス近似の理論と関連している.さらに,無理数の無限連分数展開を用いて「ある条件」を書き換え,ほとんどすべての無理数がこれをみたすことや,2次の代数的無理数はこれをみたさないことなどを示した. 周期が無理数比の場合は有理数比の場合ほど精密な評価ができないといった数論的な困難さを伴うので,既存の結果も限定的なものであった.これに対し,本研究ではほとんどすべての無理数の場合に有理数比の時と同様の現象が起こることが示されている点が意義深い.周期の比によって実際に異なる性質を示す可能性は先行研究で指摘されていたが,本年度は結論を出すに至っておらず,今後の課題の一つとしたい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書では平成24年度はザハロフ方程式について研究する計画であったが,平成25年度に実施する予定であった非線形シュレディンガー方程式の研究を前倒しで行う形となった. 本年度の成果は方程式の解の初期値依存性が滑らかでないことを指摘するにとどまり,実際に適切性を解明するには至っていない.この点では当初の計画からやや遅れていると言わざるを得ない.しかしながら,適切性・非適切性の解明には数論の知識の援用が不可欠であり,本年度はディオファントス近似や連分数展開など数論分野との深いつながりを明らかにできた点で期待以上の成果があった.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,前年度までに培われた数論的な考察を援用する論法をさらに発展させ,非線形シュレディンガー方程式や,前年度に取り組まなかったザハロフ方程式等の様々な方程式について適切性を検討したい. また,解の一意性が制限なしに成立する無条件適切性と呼ばれる性質にも注目している.広い初期値のクラスを考えるほど無条件適切性は成立しにくくなるが,構成方法によらず解が一致することを保証する重要な性質なので,その解明にも積極的に取り組みたい. 平成26年度以降の研究については交付申請書記載の研究実施計画に準じる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,年度末の時期の海外出張において先方から滞在費の支給があったため研究費からの支出を取りやめたことにより,年度内の使用を予定していた助成金の一部を次年度に繰り越すこととなった.平成25年度は自身が主催者となって研究集会を開催する予定であり,研究者の招聘のためまとまった額の費用が必要となるので,当該年度分として申請した旅費とあわせて繰り越し分を充当する予定である.
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