2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740096
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
上原 崇人 新潟大学, 自然科学系, 助教 (40613261)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 複素曲面 / 自己同型写像 / 力学系 / エントロピー |
Research Abstract |
本研究の研究対象は, コンパクト複素曲面もしくは射影代数曲面上の双正則自己同型写像及び双有理自己同型写像である. 特に今年度扱った研究対象は, 尖点反標準曲線を許容する有理曲面上で正の位相的エントロピーをもつ自己同型写像である. 正のエントロピーをもつ写像は尖点反標準曲線を保つが, そこからディターミナントが定義される. 本年度はこのディターミナントに焦点をあてて研究を行った. 具体的な研究成果は次の通りである. (i)写像のディターミナントの集合を決定した. 具体的には, ディターミナントの集合は次の2つの集合の和集合である:(1)1のベキ根の集合, (2)あるワイル群のローレンツ格子への作用から得られるセーラム多項式の根の集合. 特に, ディターミナントが1のベキ根となる写像の存在については一般論が構築されていなかったため, 任意の1のベキ根に対して, それがディターミナントとなる写像を具体的に構成したことが本年度の大きな研究成果である. 本結果は, 有理曲面上の写像, つまり本研究の研究対象となる力学系が豊富に存在することを示している. (ii)ディターミナントの絶対値が1ではない写像に対するジュリア集合について調べた. 具体的には, 有理曲面上に自然に定義される面積形式で測ってジュリア集合は面積ゼロとなることを示した. 特に, 写像に対して最大の測度論的エントロピーを実現する不変測度が定義できるが, この不変測度が自然な面積形式に関して特異になることを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つとして有理曲面上の双正則自己同型写像による力学系の解析が挙げられるが, そもそもこの力学系が豊富に存在するか否かは大きな問題であった. ディターミナントを介した研究は当初着眼点としてなかったが, このディターミナントを用いて, 目標の一つであった本研究の研究対象となる力学系が豊富に存在することを示したことは意味がある. また, もう一つの目標であった不動点及び周期点の解析についても, ディターミナントの絶対値が1と等しくない場合には成功したことになる. なぜなら, 本質的にこれら周期点はジュリア集合上にあるため、周期点全体の大域的な情報も決定できたことになるからである. よって, 今年度は当初の計画以上に進展していると結論づける.
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Strategy for Future Research Activity |
今後も複素曲面上の写像による力学系の研究を行う. 特に次年度は, 複素曲面上の写像の不動点および周期点まわりでの挙動について調べる. 一般にエントロピー正の自己同型写像に対して, ほとんどすべての周期点は双曲型であることが知られている. しかし, 双曲型以外の周期点の存在を調べることも興味のある問題である. 例えば, K3曲面上の双正則写像の場合には, 不動点まわりでジーゲル円板とよばれる領域が存在することをマクマレンは示している. 写像のジーゲル円板とは, 不動点のまわりで写像が無理数回転として作用する領域のことで, エルゴード性や稠密な軌道の存在に対する障害となるものである. トーラス上の自己同型写像はジーゲル円板をもちえず, K3曲面の場合には, ジーゲル円板をもつ自己同型写像は超越的となることが示されており, 現象の具体的記述は困難である. そこでジーゲル円板をもつ有理曲面上の自己同型写像が重要な意味をもつことになる. そこで, これまでの研究で得られた双正則写像の中から, 無限個数のジーゲル円板をもつ例を探す. 写像のジーゲル円板を示す方針は, 写像の不動点を求めること, そして不動点における接空間への作用のもつ固有値の乗法的独立性を示すことである. そうすれば, 超越数論の結果を用いることでジーゲル円板の存在が示される. しかし, 写像の不動点を求めるには, 非常に高次で多変数の方程式系を解く必要があり, さらに乗法的独立性を示すことも一般には困難である. そこで, これまでに構成した写像の実例のいくつかに対して, コンピュータを用いた数値実験を行い, 写像の不動点および固有値の乗法的独立性を数値的に予想する. さらに, 実際に写像のジーゲル円板となることを証明するための理論の開発に努める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記で述べたように力学系に対するジーゲル円板の存在を理論的に解析するためには, その前段階として具体的なモデルに対する数値実験は不可欠である. また, 今日盛んに研究されている複素解析学や複素幾何学, 複素ポテンシャル論等の最新の研究成果に関する情報収集を日常的に行うためには, ネット環境下で論文を入手する必要もある. この状況から, パソコンが必須となる. 出張先等でも日常的情報収集を行うため, さらに計算スピードが必要であるため, ハイスペックなノートパソコンおよび計算ソフト「Mathematica」を購入する. また, 知識修得のため, 代数・幾何や力学系に関する書物や, 関連する研究結果のまとまった専門書も購入する. さらに専門的な知識を習得するため, また研究者との意見交換を行うため, 出張を行い研究集会に参加したり, 外部の研究者を招待したりすることも考えている.
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Research Products
(5 results)