2013 Fiscal Year Research-status Report
非線形変分不等式に支配される自由境界の多角的観点から捉える安定構造の研究
Project/Area Number |
24740099
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
白川 健 千葉大学, 教育学部, 准教授 (50349809)
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Keywords | 結晶粒界 / 一般多次元モデル / 放物型変分不等式 / 特異拡散方程式 / 解の存在定理 / 時間離散化法 / 統一的な解法 / 数値計算 |
Research Abstract |
平成25年度では当初計画通りに結晶粒界の数学モデルに焦点を絞り、一般多次元のケースに対する数学理論による解析に取り組んだ。扱う数学モデルは発案者の名前を取って “Kobayashi-Warren-Carter モデル” と呼ばれ、数学的には放物型の連立変分不等式によって記述される。このこともあって当初は連続系の手法に頼った解析法をイメージしていたが、この手法では既存の一般論の適用が予想外に難しいことがわかり、年度前半では課題遂行が一時的に難航した。しかしながら、研究協力者の渡邉氏(サレジオ高専)やMoll 氏(バレンシア大学)と研究討論する中で時間離散化法を用いてモデルを離散的に捉える着想が得られ、この着想を足掛かりに中期達成目標であった一般多次元モデルにおける解の存在定理の証明に成功した。加えて、今回用いた時間離散化法による証明手法は、Kobayashi-Warren-Carterモデルの近似問題や類似の放物型変分不等式にも適用可能であることもわかったため、結晶粒界と関連する幅広い放物型のシステムを扱い可能とする「統一的な解法の構築」という新しい研究構想を得ることも出来た。 これとは別に、年度後半では研究協力者の角谷敦氏(広島修道大)をはじめとする計算機の専門家の助言を受けながら、数値計算の専用機を購入した。その上で、楕円型・放物型の変分不等式を数値計算するための有限要素法によるプログラムを作成し、様々な変分不等式を対象にしたテスト計算を実施した。扱った変分不等式の中にはKobayashi-Warren-Carterモデルの主要部である「特異拡散方程式」も含まれており、テスト計算データの検証を蓄積した結果、次年度より開始予定の数値実験がすぐにでも行える計算機環境を準備することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の課題は大きく2つあり、1番目は「結晶粒界のKobayashi-Warren-Carterモデル数学理論による考察」であり、2番目は「数値計算専用機の導入と数値実験環境の整備」であった。 1番目の課題に対しては、時間離散化法を用いた強力な解析法が構築できたことはやはり大きな成果であり、当初の予想を上回る進展が見られたという点において、素直に高く自己評価している。しかしその一方で「時間離散化による統一的な解法の構築」というような、申請段階では想定しなかった研究課題も新たに発生している。研究が活性化したという点で、こういった課題の追加は歓迎すべきと言えるが、同時にあまりこちらに力を入れ過ぎてしまうと本研究の原点ともいえる「幾何学を交えた多角的観点からの自由境界の考察」の方に結局手が届かなくなってしまうことも危惧しなくてはならない。 また2番目の課題に対しても、当初の計画通り次年度より稼働可能な計算機環境を整えることができているため、ひとまずは自己評価を低くする要素は見当たらない。しかしながら、実施したテスト計算の中には、計算効率に関して難色を示すデータも何例かある。当面は現段階で稼働可能な環境で数値実験を進めることになるが、数値計算が本格的に稼働すれば計算効率の向上がすぐに問題となるであろうことは、現段階からも予想できる。 以上のことから、当該年度では課題遂行において大きな進展があったため良い形で折り返し地点を迎えることが出来たが、その反面で追加のタスクも増えている。今後2年間は今まで以上に合理的な課題遂行が求められことは明らかであり、まだ決して楽観視できる状況ではないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究実績及び達成度を踏まえ、平成26年度以降は以下3つの課題を中心とした活動を計画している。 1番目の課題は、結晶粒界のKobayashi-Warren-Carterモデルを含む、様々な放物型連立変分不等式の定性的性質を保証する抽象数学理論を構築することで、こちらは前述の「時間離散化による統一的な解法の構築」と対応する。2番目の課題は、「多角的観点からの自由境界の安定構造の考察」であり、こちらは本研究において最も力を入れて取り組みたいと考えている、挑戦的なテーマである。3番目の課題は、数値実験であり、こちらは数学理論による研究成果の可視化および再検証が主な目的である。 以下では、これら3つの研究課題の遂行計画について、年度を追って説明する。 平成26年度では、1番目の課題の遂行を年度前半で目途をつけ、早い段階で2番目の課題だけに集中できるようにすることが肝心である。1番目の課題に関しては解析方法の見当はついているので、研究協力者と分業で取り組めば、当該年度中に確実に成果が得られると考えている。したがって、平成26年度後半期には2番目の課題には着手し、必要に応じて計画を軌道修正することで、最終年度には迷いなく課題遂行できる状態を作る。 平成27年度では、課題遂行者(白川)と研究協力者全員の総力をすべて、2番目の課題に集中させる。空間1次元のケースについては既に研究討論が始まっているので、現時点では空間1次元のケースがひとまずの達成目標となるが、あくまで最終的な目標は空間2次元以上のケースでの自由境界の安定構造の考察である。 なお, どの年度でも数値計算は行うが、本研究は数学理論による考察が中心であるので、数学理論以外の技術的な部分を研究協力者と分担して、作業量が過剰とならないように留意する。
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