2014 Fiscal Year Research-status Report
非線形変分不等式に支配される自由境界の多角的観点から捉える安定構造の研究
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24740099
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
白川 健 千葉大学, 教育学部, 准教授 (50349809)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 結晶粒界の数学モデル / 放物型連立変分不等式 / 改良型モデル / Allen-Cahn 方程式 / 統一的な解析法 / 結晶構造の回転効果 / 非等方的数学モデル / 定常解の構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、結晶粒界に関するテーマに的を絞り「Kobayashi-Warren-Carterモデル」の名で知られる数学モデルから派生する様々な放物型連立変分不等式の数学解析に取り組んだ. 活動内容は、大きく前半期と後半期の2つの部分に分けられる。 前半期では、Kobayashi-Warren-CarterモデルとAllen-Cahn方程式とをカップリングさせた数学モデルの解析に取り組んだ。このモデルは、Kobayashi-Warren-Carterモデルでの「結晶配向度」「結晶方位角」という2つの未知変数に「物質の凝固度」という新たな未知変数を追加した3変数の連立系で構成されており、温度一定という制約はあるものの、よりリアルな現象再現が可能になった点で従来型の「改良型モデル」と呼ぶ事が出来る。前半期ではこの改良型モデルの定性的性質を調べる事で、改良型モデルおよび、これと関連する多数の連立系をも扱い可能とする数学理論による統一的な解析法を構築した。他でも、数値計算結果を研究協力者と検討する過程で結晶構造の異方性(非等方性)の重要性がクローズアップされ、その際には結晶方位の変化に合わせて結晶構造が回転する効果を新たに追加する必要性が指摘された。この指摘に基づき更に研究討論を重ねた結果、上記の結晶構造の回転効果を取り入れた非等方的数学モデルを独自に考案し、これが連立変分不等式としてどのように定式化されるかを明らかにした。 後半期では、前年度末で計画したとおり、自由境界の構造解析に関する研究を新しくスタートさせた。この課題に対しては、主に研究協力者のMazon氏の助言を仰ぎながら研究方針を確定させ、手始めとして非斉次Dirichlet型境界条件での1次元定常解および一般多次元での球対象な定常解の解構造を、幾何学的な観点から明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度では、前半期に「抽象数学理論による数学モデルの解析法の構築」に関する活動にめどをつけ、後半期に「自由境界の構造解析」に活動の中心を移す事が当初の目標であった。 前半期の計画と対応する活動は、Kobayashi-Warren-CarterモデルとAllen-Cahn方程式とをカップリングさせた改良モデルに関する研究である。ここで得られた研究成果により、熱交換の効果を取り入れても同様の解析法が有効であるという見通しが得られ、温度による結晶粒界の制御問題の様な発展的な課題に対しても、研究の展望を開くことが出来た。また、結晶の異方性を取り入れた独自の非等方的数学モデルが定式化出来た事は、数値計算結果を検討するまで着想が得られなかった新しい進展である。この意味で数値計算方面の活動に関しても、徐々にではあるが着実に本研究の計画推進に貢献し始めている。 後半期の計画では、連立する変分不等式の解構造の解析に予想以上の困難が発生したが、年度終了時には計画の初段階に設定した定常解の構造解析まで、研究を進展させる事が出来た。現時点で考察可能な自由境界は限られているが、後半期の活動からは「区分的定数値の解構造に焦点を絞る」という具体的な方策を得ており、この方策は次年度以降の計画を推進する際の大きな足がかりになると期待出来る。 以上をまとめると、全体的には特に大きな軌道修正はなく、当初の予定通りに計画が進行していると評価している。同時に、非等方的数学モデルでクローズアップされた結晶構造の異方性は自由境界の幾何学的構造と密接に関係するため、次年度では「自由境界の構造解析」と「非等方的数学モデルの解析」の研究を両立させるよう、計画を修正する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においても、例年と同様に研究期間を前半期と後半期に分け、達成度によって計画を修正出来る様な体制で臨む。また、先述の達成度評価に基づき、当該年度では当初予定していた「自由境界の構造解析」に関する課題に「非等方的数学モデルの解析」を追加する。これに伴い、前半期と後半期の活動内容を以下の様に再設定する。 前半期では、ひとまず結晶構造が等方的な場合のみを考え、空間1次元モデルの時間発展する解構造の解析から着手する。この課題では、既に「区分的定数値の解」という明確な考察対象が示されているので、他の課題と比べて課題遂行の見通しは明るいと考えられる。従って、前半期では空間1次元の場合については早い段階に活動のめどをつけ、時間発展する一般多次元球対象解にまで考察を進める事を、現時点での達成目標とする。これと並行して、前年度に考案した非等方的数学モデルに対する数値計算を行い、結晶構造の回転効果を伴う自由境界の形成プロセスの解析に向けて数値実験データを蓄積する。 後半期では、非等方的数学モデルの定性的性質を調べるところから着手するが、計画が難航する場合を想定し、以下2通りの推進計画を用意する。 1番目は、非等方的数学モデルの解析が順調な場合の計画である。この場合は、非等方的数学モデルの定常解の構造解析へ活動を継続させ、更に定常解の安定性解析を行う事で結晶粒界の安定構造に関する幾何学的観点からの考察を与える。 2番目は、非等方的数学モデルの解析が難航した場合の計画で、この場合は異方性を考慮しない(等方的な)数学モデルへ考察対象を変更する。定常問題の構造解析から安定性解析へ進む一連の流れは、1番目の計画と同様である。 更に補足するならば、実は2番目の計画は当初計画に沿った本研究本来の達成目標であり、1番目の計画は非等方的数学モデルという予想外の展開に合わせて設定した発展的な目標である。
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Research Products
(17 results)